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「聞こえるのに理解できない」中枢性聴覚処理障害(CAPD)とは?

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2025年11月28日

中枢性聴覚処理障害(CAPD)とは?聴力正常でも聞き取れない不思議な症状と向き合うために

突然ですが、こんな経験はありませんか?

  • 聞き取れなくて何度も「え?」と聞き返してしまう
  • 人の話を最後まで聞き取れないことがある
  • 騒がしい場所では会話が理解しにくい

こうした経験をして「耳が悪いのかな」と思っても、聴力検査には問題がない。自分の努力不足や気持ちの問題かもと考え、工夫してみても聞き取りにくさは変わらず、どう改善したらいいのか分からない。

ーそんな方もいるのではないでしょうか。

実は、その「聞こえにくさ」、耳そのものの問題ではなく脳の機能によるものかもしれません。今回は、耳で音は拾えていても、脳での音の処理や理解がうまくいかないことによって起こる聴覚障害、中枢性聴覚処理障害(CAPD)について紹介します。

 

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中枢性聴覚処理障害(CAPD)とは?特徴と定義


中枢性聴覚処理障害(Central Auditory Processing Disorder: CAPD)とは、耳の聴力自体には問題がないにもかかわらず、「音とし聞こえているのに、言葉が理解できない」という状態を指します。

これは、音を「耳でとらえる」段階ではなく、その後の脳で処理・解釈する仕組みに困難さがあるために起こるといわれています。

 

音はどうやって「意味」になる?聴覚処理の流れを理解しよう


どういうことかというと、私たちが音を聞くとき、耳に入った音はそのまま理解されるのではなく、体内で複雑なプロセスを経て初めて「意味」として認識されます。

音の認識の流れ

  1. 外耳が音を集める空気中の音の振動を外耳がとらえます。
  2. 中耳で鼓膜が振動する音が中耳に届くと鼓膜が揺れ、その振動が奥へと伝わります。
  3. 耳小骨による音の増幅ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨という3つの小さな骨が振動を効率よく内耳へ伝え、音を増幅します。
  4. 内耳(蝸牛)で電気信号に変換蝸牛で振動が電気信号に変換されます。
  5. 聴神経を伝わり脳へ変換された電気信号が聴神経を通って脳に届きます。
  6. 視床で音の種類を選別脳に入った信号はまず視床に送られ、「どの音に注意を向けるか」「どの音を背景音とするか」が仕分けされます。
  7. 聴覚野で音が認識される最後に大脳皮質の聴覚野に届き、初めて「音」として自覚され、さらに言葉や意味として理解されます。

この流れから、「耳で音をとらえる」ことと「脳で音を理解する」ことは別の働きであることがわかります。

CAPDでは、外耳から蝸牛までの「音を電気信号に変える」仕組みは正常に働いていますが、脳で音を整理・解釈する部分に困難さがあるため、耳は正常でも会話の理解が難しくなるのです。

 

CAPDの人が日常で感じやすい困りごととは?


中枢性聴覚処理障害があると、日常生活で以下のような困難が生じることがあります。

  • 聞き返しが多い
  • 聞き誤りが多い
  • 雑音のある環境で聞き取りにくい
  • 口頭での指示を忘れやすい
  • 早口や小さな音が聞き取りにくい
  • 目からの情報に比べて耳から学ぶことが困難
  • 長い話に注意を集中させ続けるのが難しい

これらの症状が高じると、コミュニケーションへの自信を失ったり、社会的場面を避けるなどの二次的な影響が生じることもあります。

 

CAPDはなぜ起こる?先天性・後天性の要因を解説


では、このCAPDはどうして起こってしまうのでしょうか?

先天的な要因としては、ADHDや学習障害(限局性学習症/SLD)、自閉症スペクトラム障害(ASD)などとの併存率が高いことが報告されており、それらの神経発達的特徴に伴う形で症状が現れる可能性が示唆されています(関連項目:学習障害(LD)とは?特性・診断・支援方法を専門家が解説)。

また、後天的な要因としては、脳血管障害(脳卒中など)、頭部外傷、脳腫瘍などによる脳損傷、加齢による認知性難聴や聴覚処理能力の低下、慢性的なストレスや騒音といった環境要因などが挙げられます。

神経処理的な問題としては、聴覚的注意力の低下やワーキングメモリの低下が影響しているのではないかと言われています(ワーキングメモリの解説はこちら:精神科医監修ライフハック心理学#5【実行機能をわかりやすく簡単に解説】)。

 

CAPDへの対処法:今日からできる5つの具体策


どうすれば「聞こえにくさ」は改善されるのでしょうか?

残念ながら、現状では医学的な治療法は確立されていません。

しかし、根本的な治療が難しくても、症状の軽減や生活への適応を促進していくことは充分可能となります。以下に対策をまとめましたので、無理なくできそうなことから初めていきましょう。

①環境調整を行う

  • 雑音の少ない静かな環境で会話や学習を行う
  • 音声情報を整理して提示する(短く区切る、繰り返す)

②補聴・聴覚支援機器を使う

  • FM補聴システムやイヤホン型増幅器を活用する

③聴覚トレーニングを行う

  • 音の識別や注意力を鍛えるプログラムを行う(例:音の順序を聞き取り、順番通りに答える課題など)

④視覚的手段を活用する

  • 口頭指示を文字や図で補助する
  • スライドや手書きメモで情報を提示する

⑤背景要因への支援

  • ADHDやASD、学習障害などの、併存症に応じた教育的・心理的サポートを行う

上記を組み合わせることで、CAPDによる日常生活や学習・仕事での困難を軽減することが期待できます。

1人で対策することが難しい場合は、専門家と二人三脚で進めて行くこともできます。こんなことで病院に行ってもいいのかなと思わず、まずは専門家に相談してみましょう。

 

「努力不足」と決めつけないで。自分を知ることから始めよう


中枢性聴覚処理障害はまだ解明途上の症状ですが、「聞き取りにくさ」にはさまざまな要因が関わっていることがお分かりいただけたと思います。表面上は「努力不足」や「集中力がない」と見られがちですが、できないことを無理に責める必要はありません。

人には個性があり、体や脳の特性も一人ひとり違います。自分の特性を理解し、環境を整えたり、そもそも自分に合った環境に身を置くこと。

これが、CAPDとうまく付き合いながら能力を発揮するための大切な考え方だと思います。

まずは自分の個性や特徴を把握し、自分が最も能力を発揮しやすい環境はどんな環境かを模索していきましょう。

 

【解説】

田っちゃん(公認心理師・臨床心理士

田っちゃんコラム一覧

 

【監修】

本山真(代表取締役社長)

精神科医師/精神保健指定医/日本医師会認定産業医/医療法人ラック理事長

2002年東京大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部付属病院で研修。川越同仁会病院、不動ヶ丘病院の勤務を経て、2008年埼玉県さいたま市に宮原メンタルクリニック開院。2016年には医療法人ラックを設立し綾瀬メンタルクリニックを開院。2019年株式会社サポートメンタルヘルス設立。

 

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