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【産業医監修】“正しさ”が人を追い詰めるとき──部下への指導が加害になる前に

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2025年10月17日

“正しさ”が人を追い詰めるとき―部下への指導が、いつのまにか“加害”になる構造を考える―

 

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職場で起こるメンタル不調の相談。その背景を丁寧に聞き取っていくと、しばしば「上司からの“正しさ”の押しつけ」が影を落としている場面に出会います。

「部下のためを思って」

「本人の将来を考えて」

その気持ちに嘘はない。

けれど、まっすぐな善意ほど、時に人を傷つけることがあります。

管理職にとって避けて通れない「指導」の場面。そこに潜む、無自覚な“加害”性を見つめることは、自分自身を守ることにもつながるのです。

 

■ “正しさ”という名のプレッシャー


例えば─

「遅刻を繰り返す部下に、厳しく注意した」

「報連相ができない若手に、根気強く指導した」

どちらも、管理職として当然の対応のように見えます。けれど、部下が精神的に追い詰められた末に休職したとなれば、どうでしょうか?

「注意しただけなのに、なぜ?」

「甘やかしたら本人のためにならない」

そんな疑問や苛立ちが浮かぶかもしれません。しかし、“正しさ”は常に一枚岩ではありません。その“正しさ”が、部下にとって「耐えられないプレッシャー」になることもあるのです。

 

■ 正しさの裏側にある「期待とラベリング」


人は、誰かに期待することで、その人の行動に意味づけをします。「期待しているからこそ厳しく言う」という指導は、裏を返せば「こうあるべき」という枠にはめる行為でもあります。そこには、“正しい部下像”というラベリングが無意識に働いていることもあります。

  • 真面目に働くべき
  • 言われたことはやるべき
  • 困ったら助けを求めるべき

これらは一見すると社会人として当然の姿勢に思えますが、すべての人が同じように振る舞えるわけではありません。

背景には、発達特性・家庭環境トラウマ・病気など、様々な事情があるかもしれないのです。

 

■ “正しさ”を手放すことは、“責任放棄”ではない


「これが正しいと思うことを伝える」

これは管理職として、重要な役割です。

しかし、その“正しさ”が相手に届かない、あるいは届いても心を壊してしまう。

 

そんなとき、いったん「自分の正しさ」を脇に置いてみる勇気も必要です。これは「指導をやめる」「放置する」ことではありません。むしろ、より丁寧に、より双方向的に関わるということ。

  • 「私はこう思うけど、あなたはどう感じている?」
  • 「どうすればやりやすくなる?」
  • 「このやり方、無理がない?」

問いかけることで、相手の中にある“正しさ”も尊重できる関係性が生まれます。

 

■ 「守るべき部下」のはずが、「壊れる上司」になっていないか


ここで、もう一つ大切な視点を。

部下を守ることに必死になるあまり、自分自身が疲弊していないでしょうか?

  • 毎日LINEで体調確認をしてしまう
  • 相談されれば夜中でも返信してしまう
  • 少しでも元気がない様子を見て「また悪化したかも」と不安になる

これらは一見「良い上司」の行動に思えるかもしれませんが、実は危険信号でもあります。“部下を守る”という使命感が、“自分を壊す”ことにつながってしまっては本末転倒です(関連:部下・同僚への配慮|厚生労働省こころの耳)。

 

■ では、どうすればいいのか?


メンタル不調を抱える部下を支えるには、次の3つの視点が有効です。

  1. 「安全基地」としての関係性を築く

    無理に変えようとせず、「ここにいていい」と思ってもらう関係性を。

  2. 「指導」ではなく「支援」にシフトする

    本人のペースや文脈を尊重した対応が求められます。

  3. 自分一人で抱え込まない

    産業医、外部相談窓口、人事など、多様な支援資源を活用することが必要です(こちらもどうぞ:精神科産業医監修|産業医面談のメリット・デメリットを解説)。

 

■ “善意の加害”を、チームで防ぐ


私たちは「相手のために」と思って行動します。

けれど、その善意が相手にとって負担になることがある。

だからこそ、独りよがりにならないよう、チームで対話することが大切です。

 

「この対応、どう思う?」と、同僚と話せる風土があるか。「自分がつらい」と言える職場になっているか。それが、組織のしなやかさであり、強さです。

 

■ 最後に


“正しさ”に追い詰められてしまう職場が増えています。その火種が、誰かの善意から生まれていることも珍しくありません。

「正しいことをしているはずなのに、なぜ苦しいのか」

そんな違和感を覚えたときこそ、立ち止まるチャンスです。

 

「正しさ」を問い直すことは、自分自身を大切にするということ。

あなたが壊れず、部下も潰れない職場を目指して。

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