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精神科医監修【推しロスからの回復法】心のプロセスを理解する

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2024年11月29日

推しロスから回復するために心のプロセスを理解しましょう

【監修】

本山真(精神保健指定医/日本医師会認定産業医)

東京大学医学部卒業後、精神科病院、精神科クリニックにおける勤務を経て、2008年埼玉県さいたま市に宮原メンタルクリニックを開院。メンタルヘルスサービスのアクセシビリティを改善するために2019年株式会社サポートメンタルヘルス設立。

執筆】

ぶち(臨床心理士・公認心理師)

皆様、“推し”はいますか?

最近はハマっている人や好きな人、応援している人のことを幅広く“推し”と表現することがあります。例えばアイドル、アニメのキャラクター、俳優、歌手、スポーツ選手などに対しても用いられているでしょうか。そんな“推し”が急に目の前からいなくなる経験をしたことはありますか?アイドルだったら卒業や引退、活動休止、アニメのキャラクターだったら物語の中で亡くなってしまうなど、お別れは唐突に来るものです。「○○ロス」と言うこともありますね。今回は、大切なものを失うという経験にどう向き合い、どのように立ち直るかについて考えてみましょう。

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推しロスによって何が起きるのか?


愛着のあるものを失うことを「対象喪失」と呼びます。最初に思い浮かべるのは、家族や友人を亡くすことかもしれませんが、”推し”に対しても同様の体験が生じます。対象喪失後の身体や心の反応、そしてそれに対処する過程は「喪の作業」と呼ばれ、ボウルビィの4段階プロセスとして説明されることがあります(関連項目:精神科医監修|喪失との向き合い方ーグリーフケアとは?ー)。

①無感覚の段階

大切な人・ものを失った直後の約1週間は、ショックで無感覚になり、何が起こったのか理解しきれない状態になります。

②否認・抗議の段階

徐々に現実を受け入れたくないという感情が湧き、怒りを感じることがあります。

③絶望・失意の段階

大切な人・ものを失ったことを認め、気持ちが抑うつ的になる段階です。無気力や孤立感を感じやすくなります。

④離脱・再建の段階

大切な人・ものを失った事実を徐々に受け入れ、穏やかな感情が芽生え、社会生活に戻っていく段階です。

 

上記のプロセスは、”推し”を失った場合にも同様に生じます。好きなアイドルやキャラクターを失った際も、この4段階を体験することが多いのです。

例えばアイドルが卒業したとき、好きな歌手が活動休止を発表したとき、好きなキャラクターが物語から退場したとき、①心にぽっかりと穴が空いたようになり、日常生活は遅れていても感情が動きにくくなったりします。そしてアイドルや歌手の曲などは残っているので聴き漁ったり、キャラクターは登場していた回をたくさん観たり、②いなくなったことを感じないようにします。しかし、新しい曲が出ないこと、今後の物語で死者として扱われる事実を認め、③悲しんだり、どうしていなくなったのかと怒りが生まれたりします。最終的には失った事実を受け入れ、④残してくれた曲や今までの活動、キャラクターが存在したことに感謝するようになり、次の推しを見つけることもあるかもしれません。

 

ちなみに、杉原・進藤(2022)では推しの失い方によって生じる気持ちが変わることが示されています。研究では「引退、結婚、死亡」の3種類の喪失体験を対象にしており、いずれの場合も最初は「パニック」や「否認」といった反応が見られるそうです。俳優等が結婚した場合には裏切られたような気持が生じ、「怒り」や推してしまった「後悔」が現れるそうです。確かに活動再開が決まっている休止と、完全に表舞台から引退する場合では喪失の度合いが変わるでしょうし、その人やキャラクターだけを好きだった!という人と、色々な推しがいる人とでも喪失の受け止め方は変わってきそうですよね。

 

喪の作業にかかる期間はおおよそ1年間と言われたりしますが、実際には人それぞれです。また、必ずこの順番通りに進むとは限らず、行ったり来たりすることもあります。渦中にいると、自分の身体や心がおかしくなってしまったのではないかと不安になることもあると思いますが、茫然としたり、怒りが湧いたり、気分が沈んだりすることは当たり前の反応だと言えます。喪失に伴う反応が生活に支障をきたす場合には医療機関等に相談するのがよいでしょう(関連項目:精神科医監修|記念日反応とは?公認心理師が症状と対策法を解説)。

 

【参考】うつ病で休職を検討するサインとは?

 

推しロスからの回復プロセス


推しの喪失体験から立ち直るには、上記で説明した喪の作業を進めることが一番なのですが、一人で向き合い続けるのは中々大変なことです。そこで、同じ推しを推している仲間と悲しさを共有したり、気持ちを書き出して今自分が喪の作業のどの段階にいるのか客観的に見てみたりすると良いかもしれません。最近ではSNS等で簡単に推し仲間を見つけることができるので、そこでお互いに気持ちを共有すると、悲しい、寂しい思いをしているのが自分だけではないと知ることができます。

※もちろん失った怒りや批判的な気持ちを推しの目に留まる形で発信するのは控えましょう…(参考:なぜ人はSNSで誹謗中傷をするのか?心理と背景を探る

 

【参考】精神科医監修|ペットロスの乗り越え方ー喪失からの回復ー

 

喪の作業における①~③の段階は、自分の気持ちがコントロールできなくなって混乱しやすい状態だと言えます。推しに対して抱いていた気持ちや失ったショック、今自分がどんな気持ち・状態なのかを書き出す(例:3行日記)と、気持ちが整理できますし、喪の作業のどの段階にいるのか把握ができるので今後生まれるかもしれない気持ちも受け入れやすくなるかもしれません。最終的にはこれまで活動・活躍してくれていた推しに感謝できると良いなと筆者は思います。まずは無理に乗り越えようとせず、しっかりと悲しんで、徐々に受け入られたら良いのではないでしょうか。

 

参考文献


  • 杉原まるみ・進藤貴子(2022)ファンの喪失体験と回復過程 岡山心理学会大会発表論文集(69)17-18
  • 小此木啓吾(1979)対象喪失 中公新書

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