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【精神科医監修】なぜ人はSNSで誹謗中傷をするのか?心理と背景を探る

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2024年10月18日

SNSにおける誹謗中傷について心理と背景を解説

昨今SNSでの誹謗中傷の問題は大きくなっています。批評なのか批判なのか、非難なのか…、その境目は中々はっきりしませんが、一つの意見として発信したつもりでも、受け取り手によっては非難されたと捉えられることもあります。最も避けるべきは、たくさんの人が匿名で誹謗中傷を行い、その対象になった人や、それを見た人が深い傷を負ってしまうことだと思います。そこで、相手を傷つける可能性があるにもかかわらず、なぜ人はSNSで誹謗中傷を行ってしまうのか、その心理について考えていきたいと思います。

 

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SNSの特徴から誹謗中傷が発生しやすいメカニズムを探る


まずはSNSの特徴によって起こりやすい現象やトラブルを考えてみます。

○匿名性

SNSの特徴として最も代表的なのが匿名性です。自分の素性を明かさず、現実の年齢や立場による関係性も関係なく何かを発信できるのがSNSですよね(仲間を作るために年齢や性別を公表することもありますが…)。しかし、匿名故に現実場面ではあまり見せないような自分を見せることもあるでしょう。普段、人前では抑えていたネガティブな気持ちを表現することもあるかもしれません。

オンライン環境下では対面であれば言わない/しないようなことをしてしまうという現象は『オンライン脱抑制』としてまとめられていますが(Suler,2004)、匿名性はオンライン脱抑制に拍車をかけることが良く知られています。

 

 

○発信しやすさ

SNSでは、とても手軽に自分の考えや気持ちを発信することができます。また、誰かの投稿にコメントすることも簡単にできるので、自分の意見をパッとコメントしてしまうこともあるのではないでしょうか。

 

○相手が見えない

SNS上では基本的に文字でのやり取りになりますし、匿名なので相手がどんな人なのかは分かりにくいですよね。そのため、気軽に発信した言葉で誰かの怒りを買ったり、気軽にコメントした相手が傷ついたりしてしまうこともあります。

 

○集団極性化

急に専門用語になってしまいますが、集団極性化とは“集団で意思決定するときに、個人でするよりも極端な意見になりやすいこと”を言います。例えば、ある投稿に誰かが「~ということを考えると、その意見は間違っている」などとコメントしているところを見たとします。すると、間違っていると断言まではしなくても、もとの投稿に対して「それはどうかなぁと思った」というようなコメントをすることはありませんか?さらにそれを見た人たちが、「私もそう思った」とコメントしているところを見ると、自分の考えが間違っていないんだと感じます。

 

このように、冷静になると他にも意見が出てきそうな場面で、意見が偏ってしまうことを集団極性化というのですが、これはSNSでもよく起きますよね。気づくと大勢の人がもとの投稿に対して強い言葉で否定的なコメントをするようになり、いつのまにか誹謗中傷にまで発展することもあります。集団極性化についてはSNSだけでなく、何かを決める会議や、学校でのいじめなど、様々な場面で見られますが、見えない相手に対して自分を見せずに手軽に何かを発信できるSNSでは、よりネガティブな方向に働く可能性があるんです。

 

SNSにおける誹謗中傷発生に係る心理的問題


○リテラシーの有無

上記でお伝えしたようなSNSの特徴をよく理解し、上手く利用することができる人は、いわゆる炎上を起こさず、相手を傷つけることもなく使うことができるでしょう。しかし、SNSの特徴を理解せずに使っていると、思わぬところで誹謗中傷を受けたり、加害者になってしまうこともあります。今は昔よりも多くの人がSNSを使うようになり、一つの言葉に対する捉えられ方も様々になっています。“昔はこういうことを言っても問題なかった”というようなことも、今では問題視されたり、場合によっては犯罪になってしまうこともあるので、時代に合わせて理解を改めていけると良いですね。

 

○日常生活で不満が溜まっている

日常生活で誰かに悩みを聞いてもらうことがあまりなかったり、聞いてもらっても気分が晴れなかったりすると、そのモヤモヤをSNSで発信したり、同じような悩みを発信している人に意見したりすることがあるかもしれません。すると、思わず相手の意見をそっちのけで自分の意見を主張したり、普段よりキツイ言葉を使ってしまう可能性があります。日常生活で気軽に相談できる環境がなかったり、あっても上手く活用できていないとSNS上で攻撃的に意見してしまうことがあるようなんです(森本,2021)。

 

○注意・抑制できるか

これまで“相手を考えず”コメントしてしまうとか、“思わず”発信してしまうことでトラブルに繋がるというお話が多かったと思います。特に、自分の余裕がないときは衝動的に何かを発信してしまうことがあるかもしれません。しかし、投稿を見る人のことを考えずに発信してしまうと、知らないうちに誰かを傷つけてしまう可能性があります。何かを発信する前には、自分が書いた文章が誰かを不快にさせないか、誰かを傷つけないか、一度立ち止まって考える余裕があると良いですね(関連項目:【精神科医監修】認知機能とは?認知機能が関連する困りごと)。

 

参考文献


  • 菊池由希子・大月美里・菊池聡(2020)SNS投稿トラブルと関連する心理・行動特性の研究 日本心理学会大会発表論文集84(0),PC-120
  • 森本幸子(2021)SNS上での攻撃行動の促進要因の検討 日本心理学会大会発表論文集85(0),PC-162
  • Suler, J. (2004). The online disinhibition effect. Cyberpsychology & behavior, 7, 321–326.
  • 山口真一(2015)ネット炎上の実態と政策的対応の考察―実証分析から見る社会的影響と名誉棄損罪・制限的本人確認制度・インターネットリテラシー教育の在り方― 総務省 情報通信政策レビュー 第11号
  • 横澤侑奈・篠田直子(2022)攻撃的ツイートに対する拡散行動促進要因に関する探索的研究 信州心理臨床紀要 第21号

 

【監修】

本山真(精神保健指定医/日本医師会認定産業医)

東京大学医学部卒業後、精神科病院、精神科クリニックにおける勤務を経て、2008年埼玉県さいたま市に宮原メンタルクリニックを開院。メンタルヘルスサービスのアクセシビリティを改善するために2019年株式会社サポートメンタルヘルス設立。

執筆】

ぶち(臨床心理士・公認心理師)

最近は“SNS疲れ”という言葉もあるくらい、SNSが身近で影響力のあるものになっています(【精神科医監修】SNSの心理学ーSNSとの健康的な付き合い方ー)。対面で話をしていても噛み合わないことがあるのに、文章だけでやり取りをしていたら思っていることが上手く伝わらなかったり、思わぬ伝わり方をしたりするのは当然です。

したがって、自分が発信しようとしている言葉を見返し、見る相手のことを考えて発言することが大切です。それでも誰かから否定的な意見を言われたら、相手の方があまり余裕がないのかもしれないと思って少し離れると良いかもしれません…。程よく距離をとりながら、巻き込まれ過ぎないように上手く利用していけると良いですね。

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