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【精神科医監修】タイパの心理学ー時代に求められる効率と価値観のバランスー

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2025年6月6日

現代社会に求められるタイパと価値観のバランスとは?

近年、「タイパ」という言葉をよく耳にします。タイパとは、タイムパフォーマンスの略で、少ない時間で多くの成果を上げることを指します。たとえば、日常生活では動画を倍速で見たり、仕事では効率や生産性向上を目指してAIを導入したりする場面が増えてきました。

タイパを意識すると、自由に使える時間が増えるというポジティブな側面がありますが、一方で、「なんでもタイパ」という風潮には違和感を覚えることもあります。個人的な意見かもしれませんが、タイパだけを意識していると、どこか味気ないように感じ、達成感が得られないこともあります。

本コラムでは、タイパについて心理学的視点から考察してみたいと思います。

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タイパが生まれた背景—コロナ禍と情報社会の影響


タイパという言葉がここ数年で広まりました。その背景にはいくつかの要因が考えられます。

① 行動選択の多様化

コロナ禍に伴う新しい行動様式によって、私たちの行動選択の幅は広がりました。例えば、外出自粛が強化されていた初期のころ、私は大学生でしたが、学校に通えず、部活にも行けず、ほとんど家で過ごしていました。その後、在宅勤務が普及し、社会人の多くも自由に使える時間が増えたのではないでしょうか。こうした環境の中で、「時間をどう使うか」を改めて考える機会が増え、時間への意識が高まったことがタイパの意識を強化したと考えられます。

② 情報取得の容易化

コロナ禍と同時に、情報を得る手段が飛躍的に増えました。今では、YouTubeのショート動画やSNSで要点だけを素早くキャッチできる時代です。昔なら図書館に足を運んで本を借りる必要があった情報も、今では数クリックで手に入れることができます。このように、情報の取得が手軽になった結果、タイパを意識するようになったとも考えられます。

タイパを意識する理由とその心理的要因


タイパを意識する風潮が広がる一方で、意識しない人もいます。では、タイパを意識するかどうかは何に依存しているのでしょうか?

① 個人の価値観

行動選択には「価値観」が大きく影響します。例えば、結果を重視する人は効率を重視し、タイパを意識する傾向があります。一方、過程を重視する人は、効率ばかりでは満足感を得られず、試行錯誤を大切にします。このように、タイパを意識するかどうかは、その人の価値観に深く関わっています。

② 現状志向バイアス

人間は目先の利益を優先する傾向があります。これを「現状志向バイアス」と呼びます。例えば、ゲームの攻略法を知りたいとき、1本の動画で情報を得られるなら、わざわざ分割された4本の動画を見るのは面倒に感じてしまいます。目の前の楽な方法を選びがちなこの傾向が、タイパを意識する理由の一つとも言えるでしょう(関連項目:オタク臨床心理士・公認心理師は語る。日常に潜む4つの認知バイアス)。

関連項目③ 状況(仕事・プライベート)

タイパを意識するかどうかは、その時の状況にも左右されます。例えば、期限が迫った仕事やタスクが積み重なっている場合、タイパを意識する人が多いでしょう。しかし、プライベートでは時間に縛られず、ゆったり過ごしたいと感じる人が多いのではないでしょうか。

効率化を重視するか、過程を楽しむか—どちらが重要か?


余談として、タイパよりも過程を重視したい場面について調査をしてみました。

人との話し合いや相談

人との対話では、単なる結論を急ぐよりも、相手の考えを深く理解することが大切です。コミュニケーションの中で得られる気づきやアイデアは、タイパを意識せずにじっくり話すことでより深まります。

何かを創造する時間

新しいアイデアを生み出すときや企画を考えるとき、制限を設けることで発想が広がりにくくなります。初期段階で土台をしっかり作ることで、後の展開が安定します。創造的なプロセスには時間をかける価値があります。

思い入れのあるものにかける時間

長期的に関わっているプロジェクトや自分の趣味に時間をかけることで、成長や達成感を感じることができます。自分にとって大切なことには、時間を惜しまない方が成果も得やすいでしょう。

リフレッシュの時間

心身の健康を保つためには、リフレッシュの時間が欠かせません。過度にタイパを意識すると、ストレスが溜まりやすくなるため、リフレッシュの時間を意識的に確保することも大切です。

 

【執筆】

かなた(公認心理師・臨床心理士)

今回はタイパについて考えてみました。

タイパの意識にはメリットもあればデメリットもあります。タイパを意識する場面や過程を重視する場面を使い分けることで、よりバランスの取れた時間の使い方ができるかもしれません。タイパを意識することで自分が何を大切にしているのか、何に価値を見出しているのかを考えるきっかけにもなるでしょう。

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【監修】

本山真(精神科医師/精神保健指定医/日本医師会認定産業医/医療法人ラック理事長)

2002年東京大学医学部医学科卒業。2008年埼玉県さいたま市に宮原メンタルクリニック開院。2016年医療法人ラック設立、2018年には2院目となる綾瀬メンタルクリニックを開院。

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