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タグ : メンタルヘルス , メンタル不調・精神疾患解説 , 盛光(公認心理師・臨床心理士)
2022年11月18日
最終更新日 2023年2月24日
近頃、日が短くなりましたね。植物も生き物も(人間も?)いきいきとしている夏が過ぎて、段々涼しく、寒いと感じる日も多くなってきました。そんな中、秋~冬になると、仕事や家事など、普段こなしていることがなんとなく面倒に感じる、憂うつになる、などといった話をちらほら聞きます。
「理由はないけれど、仕事へのやる気がでない…」
「なんとなくうつうつとした気分…」
「秋~冬頃に調子が悪くなり、春頃になると調子が戻る」
「やる気がでない」「憂うつ」という状態を精神的な症状とすると、いくつか考えられる疾患があります。そのうち、今回は秋から冬にかけて症状が現れる、という点がポイントになります。実はこの現象は「ウインター・ブルー」と呼ばれています。日本語でいうと「冬季うつ病」と言います。「季節性感情障害」という疾患に含まれるもので、体内の不具合によって生じるれっきとした疾患なのです。
秋冬になると何だか調子が振るわない。その不調、やる気や着合いの問題ではなく「冬季うつ病」かもしれません。今回は冬季うつ病について解説します。
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先ほど述べた通り、「冬季うつ病」は、「季節性感情障害」という疾患に含まれる疾患です。
「季節性感情障害(Seasonal Affective Disorder:SAD)」とは、いわば「季節性のうつ病」で、特定の季節に症状が出てきて、特定の季節になると軽快、回復するというパターンを繰り返す疾患です。冬季うつ病は、秋~冬にかけてうつ病の症状が出てきて、春先になると症状が軽減し回復することが特徴です。1984年、アメリカの精神科医ノーマン・ローゼンタールが「冬季うつ病」として初めて報告しました。
ちなみに季節性感情障害には、夏になるとうつ症状が出現する「夏季うつ病」という考え方も含まれます。
【気候とメンタルヘルスの関係についてはこちらもどうぞ】
【精神科医監修】天気がメンタルヘルスに影響するって知ってました?
冬季うつ病の症状のうち、特徴的な症状がいくつかあります。
「やる気がでない」というのは、一般的なうつ病でも現れやすい症状です。そのほかにも、「憂うつ」「イライラしやすい」「趣味など物事を楽しめない」など、冬季うつ病と一般的なうつ病で共通する症状があります。
冬季うつ病特有の症状、それは“食欲増進、体重増加、過眠”の3つです。
一般的なうつ病だと、「食欲がない(食欲減退)」「眠れない(不眠)」といった症状がみられます。一方で、冬季うつ病は「食欲が非常にある(食欲増進)」「非常に眠い(過眠)」といった症状が現れます。食欲増進については、特にお菓子などの甘いものや炭水化物を食べたくなることが特徴です。体重の増加についても、食欲が増す→たくさん食べる→体重が増加しやすくなる、というわけです。
そもそも、夏から秋になり、夏バテが解消されて食欲が回復することで、自然と食事量が戻る(=増えると感じる)という場合もあります。加えて、クリスマス、年末年始など、食事の内容や量が変化するイベントが多い時期です。“正月太り”なんて言葉もあるくらいですからね。睡眠についても、季節の移り変わりの中で、気温差や気圧の変化に体が追いつかず、疲労を蓄積していくと、眠気が強くなることがあります。
そのため、単に環境の変化による食べ過ぎや眠気なのか、それとも冬季うつ病の症状なのか、一見分かりづらいかもしれません。また、春先になると元気になってくるため、実は冬季うつ病の症状だったことに気づきにくい場合があります。
アメリカ精神医学会の診断基準(DSM‐5)によると、
A. うつ病における抑うつエピソードが、特定の時期に発症しており、症状と季節に規則的な関係がある (ex.いつも秋~冬の間に規則的に発症している) B. 症状が改善に向かう時期が同じである (ex.いつも春になると元気になる) C. 最近2年間に、上記A、Bに当てはまる時間的な季節的関係を示す抑うつエピソードが2回起こっており、季節に関係ない抑うつエピソードが起きていない |
とされています。
ちなみに、季節に関連する出来事から受けるストレスが明らかに影響している場合は含まれない、とされています。食欲増進で考えると、クリスマスや年末年始のお祝いの食事など、この時期ならではのイベントの有無に関係なく、それ以外の日も食欲が増している状態、食べ過ぎる状態、ということになります。
というわけで、秋冬になると「なんとなくやる気が出ない」「無性に食べ物を食べたくなる」「朝起きられない」という現象は、もしかしたら冬季うつ病の症状かもしれません。
冬季うつ病の発症の原因については、まだはっきりと解明されていないのですが、主に日照時間や日照量が関係しているとされています(ちなみに先述した夏季うつ病は気温が関係していると考えられています)。
太陽の光が網膜を刺激すると、脳内に“セロトニン”という神経伝達物質が分泌されます。セロトニン=幸せホルモン、とも言われていますね。セロトニンは様々な働きを担っており、体内時計の調整(リセット)や、他の神経伝達物質からの情報をコントロールしており、精神面の安定に影響しています。
秋から冬にかけて日照時間や日照量が減少し、セロトニンの分泌量が低下することで、体内時計のずれや抑うつ症状に繋がっていきます。ある研究では、低緯度の地域では冬季うつ病の発症率は1%以下である一方、高緯度地域での罹患率は人口の約10%と推算されています。日本国内でも、北海道や秋田県など特に降雪の多い地域で、冬期うつ病の発症率が高いという結果があります。
季節変動の乏しい地域で生活していた人が、季節変動がはっきりとしている土地で生活したらどうなるか、という興味深い研究があります。結果として、季節変動に伴って情動・行動に変化が出現するようになったのです(!)。人間の力では抗えない絶望感…。ところが人類は季節変動に伴う不調への対策を生み出しているのです。日照時間や日照量が減少するのであれば人工的に補えばよい。そんなコンセプトに基づいたアプローチが高照度光療法です。
冬季うつ病の治療には、「高照度光療法」という治療法が用いられています。人工的に強い光(高照度の光)を一定時間浴びる、という治療です。最近はウェアラブルデバイスも発売されており、以前よりもぐっと身近になりました。
冬になると過食になりがちな弊社スタッフは休憩時間に光療法を試しています笑 過食に対する効果はまだ実感に至っていないようですが睡眠の質向上、生活リズム安定といった変化は感じられているようです。何よりウェアラブル型高照度光照射装置は持ち運びできること、手軽に充電できることが便利とのことです。例年との比較について、また使用感を聞いてみようと思います。
なお、高照度光療法には冬季うつ病の予防効果も期待されており、その効果を支持する報告も複数存在しますが、高いエビデンスレベルには到達していないようです。
【参考】When is pharmacotherapy necessary for the treatment of seasonal affective disorder?
冬季うつ病において高照度光療法は確立されたアプローチだと言えますが、うつ病の症状が重症である場合に選択されるアプローチが薬物療法です。SSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)という抗うつ薬を用いてセロトニンの働きを活性化させるという作用機序が想定されています。CochranLibraryにてエビデンスの確認をしてみると、抗うつ薬の効果を支持する報告は存在するものの、研究デザイン・データの堅牢性・信頼性はまだまだ十分だとは言えず、現状エビデンスレベルが高いとは言えないようです。また、有害事象の出現率が高頻度である点は特筆すべきポイントかもしれません。
【参考】Second‐generation antidepressants for treatment of seasonal affective disorder
高照度光療法や薬物療法以外で冬季うつ病の予防対策としてできることとして“日光を浴びる”ことはとても重要です。先ほど述べた通り、日光を浴びることでセロトニンが分泌されることで、精神面の安定に繋がります。外を散歩する、通勤通学時に外を歩いて移動する(室内、地下は例外です!)と、日光を浴びながら軽い運動にもなるため、おすすめです。
「室内照明でもよいのでは…?」と思う方もいるかもしれませんが、光の強さ(照度)が日光と比べると低く、セロトニンが十分に分泌されません。屋内であれば、外の光が届く位置で過ごすことをおすすめします。体内時計のリセットという点では、朝決まった時間に起床し、カーテンを開けて朝日を浴びることも効果的です。
【こちらもどうぞ】
【眠れない方必見!】睡眠のカギは朝にある!精神科医監修不眠解消メソッド
【参考文献】
尾崎紀夫、三村將、水野雅文、村井俊哉 標準精神医学 第7版 医学書院
白川修一郎、大川匡子、内山眞、小栗貢、香坂雅子、三島和夫、井上寛、亀井健二 日本人の季節による気分および行動の変化 精神保健研究 1993 81‐93
【執筆】 盛光(公認心理師・臨床心理士) ひとこと💭 冬になるとなかなか布団から出られない、という方、多いのではないかと思います。眠さもありますが、寒さも困ったものです。「布団をかぶったまま外出できたらいいのに…」としばしば思います。
【監修】 本山真 医療法人ラック理事長、株式会社サポートメンタルヘルス代表取締役社長 医師、精神保健指定医、日本医師会認定産業医 |