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産業医監修|レジリエンスを高めるー組織レジリエンスとは?ー

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2023年7月14日

最終更新日 2024年1月23日

個人のレジリエンスと組織レジリエンスを高める方法を解説

 

現代社会では,予測不可能な変化が日常的に発生し,個人や組織に対して様々な困難が生じています。そのような困難に対処するために,レジリエンス(resilience)という概念が注目されています。本記事では,レジリエンスおよび組織レジリエンスの重要性と具体的な要素について解説していきます。

 

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レジリエンスとは


心理学におけるレジリエンスは,個人や組織が困難やストレスに対して適応する能力のことを指し,日本語では「回復力」「復元力」「弾力性」などと訳されます。元々は「外からのゆがみを跳ね返す力」という意味の物理学用語でしたが,同じく物理学用語である「ストレス」という概念が心理学で用いられるようになり,それに抗する意味として「レジリエンス」という言葉も心理学用語として用いられ始めました。

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レジリエンスの定義


レジリエンスには統一された定義がなく,研究分野や立場の違いから,様々な研究者がレジリエンスの定義を行っています。しかし,「困難やストレスイベントなどの逆境場面にあるにも関わらず,うまく適応する力あるいは現象」という意味合いは,おおむねどの研究でも一致する部分であるようです。

 

レジリエンス要因とは


ではレジリエンスを導く個人的要因(レジリエンス要因)には何があるのでしょうか。平野(2010)は,レジリエンス要因が後天的に獲得できるか否かに注目し,後天的に身につけにくい「資質的レジリエンス要因」と,後天的に獲得できる「獲得的レジリエンス要因」の2要因を見出しています。それぞれの下位概念と併せて以下にまとめてみました。

 

資質的レジリエンス要因

  • 楽観性(将来に対して不安を持たず,肯定的な期待を持って行動できる力)
  • 統御力(もともと不安が少なく,ネガティブな感情や生理的な体調に振り回されずにコントロールできる力)
  • 社交性(もともと見知らぬ他者に対する不安や恐怖がなく,他者とのかかわりを好み,コミュニケーションを取れる力)
  • 行動力(目標や意欲を,もともとの忍耐力によって努力して実行できる力)

 

獲得的レジリエンス要因

  • 問題解決志向(状況を改善するために,問題を積極的に解決しようとする意志を持ち,改善方法を学ぼうとする力)
  • 自己理解(自分の考えや,自分自身について理解・把握し,自分の特性に合った目標設定や行動ができる力)
  • 他者心理の理解(他者の心理を認知的に理解,もしくは受容する力)

 

 

また,小塩・中谷・金子・長峰(2002)はレジリエンスを「困難で脅威的な状態にさらされることで一次的に心理的不健康の状態に陥っても,それを乗り越え,精神的病理を示さず,良く適応している」状態と説明しており,それらに影響を与える性格特性の「新奇性追求」「感情制御」「肯定的な未来志向」の3因子を見出しています。

 

レジリエンスに影響を与える性格特性

  • 新奇性追求(物事に興味や関心を持ち,様々なことにチャレンジしていこうとする姿勢)
  • 感情制御(自分の感情をコントロールできる)
  • 肯定的な未来志向(明るくポジティブな未来を予想し, その将来に向けて努力しようとする)

 

レジリエンスの重要性は,個人が変化や逆境に直面した際に,健全な状態を保ちながら適応することができる能力を持つことにあります。レジリエンスを備えることにより,ストレスや困難に対して柔軟に対応し,成長や回復を促進することができます。

 

組織レジリエンスとは


上記のレジリエンスを組織にも当てはめるようになって生まれた概念が組織レジリエンスです。組織レジリエンスにも様々な定義がありますが,「危機的な状況に直面しても,組織の基本的な性質を損なわずに対応することが出来る能力」という部分は共通しているようです(福畠・備瀬,2019)。

 

組織レジリエンスは, 直面する危機や組織内の学習効果などによって,課題に立ち向かい回復する力の源泉(Sutcliff and Vogus,2003)です。例えば,組織が事故や災害に見まわれた際に,その組織は危機を乗り越え,より頑強なシステムを構築することが求められますが,組織レジリエンスはそのような組織的反応を生み出す源として機能します(中原・西村・伊藤・福本・貴島・高瀬・金井,2014)。

 

組織レジリエンスを高める


組織レジリエンスは組織的反応を可能にする3つのレジリエンス能力によって構成されています(Lengnick-Hall and Beck,2005)。

 

  • 認知的レジリエンス:あらゆる反応に対し,解釈・分析・定式化する能力。危機的状況の下,新たなスキルを発展させる機会を発見し,統合する。
  • 行動的レジリエンス:組織が危機的な状況に置かれた際に,多くのことを学習し,活用していくための原動力。得た教訓を何らかのアクションに繋げることができる。
  • 文脈的レジリエンス:関係性や資源により構成され,上記2つのレジリエンスを適切に使用するための環境を提供する。

 

 

認知的レジリエンスは,組織が状況を正確に把握し,変化や困難を適切に解釈できる能力を指します。この能力は,組織のメンバーが情報を共有し,意思決定をする際に重要な役割を果たします。組織が柔軟な思考を持ち,新たなスキルや知識を獲得し,変化に対応するための機会を見出すことができれば,組織の認知的レジリエンスは向上します。

 

行動的レジリエンスは,組織が危機的な状況に適切に対処し,学習し,成長していく能力を指します。組織が過去の経験や教訓を活かし,新たなアクションや取り組みにつなげることができれば,行動的レジリエンスは高まります。組織は逆境を乗り越えるための戦略や手段を開発し,実行することで,持続的な成果や成功を生み出すことができます。

 

文脈的レジリエンスは,組織内外の関係性や資源が組織のレジリエンスを形成する要素です。組織は,良好なコミュニケーションや協力関係を築くことで,メンバーのサポートや協力を受けながら,困難な状況に対処することができます。また,リーダーシップや組織文化がレジリエンスを促進する役割を果たします。組織が文脈的レジリエンスを高めることで,メンバーのエネルギーや能力を引き出し,組織全体の持続的な成果を実現することができます。

 

参考文献


  • 福畠真治・備瀬美香(2019).日本の公立高校における組織レジリエンスに関する事例研究 東京大学大学 院教育学研究科附属学校教育高度化・効果検証センター研究紀要,4, 60-76.
  • 平野真理(2010).レジリエンスの資質的要因・獲得的要因の分類の試み―二次元レジリエンス要因尺度(BRS)の作成 日本パーソナリティ研究,19, 94-106.
  • Lengnick-Hall, C. A., and Beck, T. E.(2005). Adaptive Fit Versus Robust Transformation: How Organizations Respond to Environmental Change, Journal of Management, Vol. 31, No. 5, pp. 738-757.
  • 中原 翔・西村知晃・伊藤智明・福本俊樹・ 貴島耕平・高瀬 進・金井壽宏(2014).組織行動論へのレジリエンス概念の導入 : マルチ・レベルで捉えるレジリエンス研究 神戸大学経営学研究科 Discussion paper 2014-1, 1-41.
  • 小塩真司・中谷素之・金子一史・長峰伸治(2002).ネガティブな出来事からの立ち直りを導く心理的特性 – 精神的回復力尺度の作成 カウンセリング研究,35, 57- 65.
  • Sutcliffe, K. M., and Vogus, T. J. (2003). Organizing for resilience. In K. S. Cameron, J. E. Dutton, and R. E. Quinn (Eds.), Positive organizational scholarship: Foundations of a new discipline (pp. 94-110). San-Francisco, CA: Berrett-Koehler.

 

【執筆】

TAKUYA(公認心理師・臨床心理士

組織レジリエンスは,組織全体が変化や逆境に対して順応し,継続的な成果や競争力を維持するための重要な要素であり,予測不可能な現代での組織の存続と成長において不可欠なものであると言えるでしょう。組織がレジリエンスを発揮することで,変化に対応し,競争力を維持し,新たな機会を生み出すことができます。

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【監修】

本山真(日本医師会認定産業医|精神保健指定医|医療法人ラック理事長|宮原メンタルクリニック院長)

 

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