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【診察時間が短すぎ問題】精神科医と心理士/心理師の違い【カウンセリングとの違い】

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2023年7月7日

最終更新日 2024年8月2日

精神科医の診察時間は短すぎ?心理士/心理師のカウンセリングとの違いとは?

突然ですが、精神科に通院している方でこのような気持ちを抱いたことはないでしょうか。

 

「診察の時間が短すぎる!!」

 

そう、診察時間が短いことに対する不満です。

 

「3時間待ちの3分診療」なんて診療時間の短さを揶揄する言葉があるように、長い時間待ったのにあっさりと診察が終わってしまってモヤモヤした気持ちになったことはありませんか?場合によっては「医師はてきとーに診察をこなしているんだ!」「回転率をあげて金儲けしたいだけなんだ!」というイライラすることもあるかもしれません。

※自分も某遊園地の大人気ジェットコースターに乗ったときは、「あんなに並んだのにもう終わり!?」「もう少し長ければいいのに!」と思うことがあります。

 

また、診察時間の短さに加えて「医師が話を聞いてくれない。」「悩み事を相談しても薬の話しかされない。」と感じたことはありませんか?自分は悩み事を聞いてもらいたいのに医師は薬の話しかしない。そうなると「自分の状況や訴えを十分に分かってもらえていない」という不安が湧いてくるかもしれません。そんな不安を感じ続けたままだと、次第に「本当にこの治療で良いのだろうか」という不信感が募っていき、最終的には治療に悪影響を及ぼす可能性もでてきます。

 

なぜ診察の時間は短く、先生は薬の話ばかりするのでしょうか。反対に、薬以外の話をじっくり聞いてもらうにはどうしたらいいのでしょうか。その疑問は「精神科医による診察」の役割と「心理士によるカウンセリング」の役割の違いを理解すると解消することができます。自分のニーズにあった治療を選択するためにも、今回は「精神科医による診察」と「心理士によるカウンセリング」の違いを一緒に整理していきましょう。

 

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精神科医の役割とは?診察とは?


まずは「精神科医による診察」とはなんぞや、というところから確認していきましょう。そもそも皆さんが当たり前に使っている「診察」とは一体どういう行為を指すのでしょうか。

 

広辞苑の定義によると、診察とは「医師が患者のからだをしらべて、病状・病因などをさぐること。」とされています。つまり、診察は医師が行うものであり、その時間は精神疾患の症状を確認したり原因を探ったりするために使う時間だということが分かります。

参考:診察|広辞苑無料検索

 

では次に、診察における「精神科医」の役割を見てみましょう。精神科医は精神科においてどのような役割を任されているのでしょうか。厚生労働省による精神科医の定義を確認してみます。

 

精神科医とは:

精神疾患の診断と治療を専門的に行う医師。厚生労働省が認定した国家資格である医師資格を持ち、精神疾患や精神障害、神経症、心身症などの診断と治療を専門的に行う。薬物療法や心理社会的治療、精神療法などを行う。

引用:e-ヘルスネット|厚生労働省

 

さて、今確認した診察の定義と精神科医の定義を踏まえると、精神科医の役割は大きく以下の三つだと考えられます。

 

①診察をして「精神疾患の病状・病因をさぐる」

②診察から得た情報で「精神疾患の診断をする」

③薬物療法、心理社会的治療、精神療法等を用いて「診断された精神疾患の治療をする」

 

精神科医は主にこの3つを行うために患者さんと診察室で対話をします。

 

たとえば、風邪の症状がでているときは、どのような症状が出ているか、その原因がどこにあるのか、これはどのような診断になるのか、それを踏まえてどのような薬を選択するかを考えますよね。精神科の治療もそれと同じで、「風邪」の部分が「精神疾患」にとって代わるだけです。

 

精神科の診察ではこれらを軸として確認していくために、日常生活の悩み事よりも最近の調子や睡眠の状態、体の調子や精神疾患の治療に関わる情報について尋ねることが多くなるのです。特に「診断を下すこと」と「薬の処方・調整すること」は医師免許を持っている精神科医しか行うことができません。精神科医にしかできないとなると、必然的にそういった話をすることが最優先になり、日常生活の悩みや不安などを確認する時間がどうしても短くなってしまうといった事情があるようです。

 

では、「診察時間を延ばせばよいのでは?」と思うかもしれませんが、できるだけたくさんの患者さんに治療を受ける機会を提供したいと考えると、どうしても1人あたりに対応できる時間が短くなってしまう傾向にあります。その他制度上の問題も影響するのですが、制度に関するあれこれは早稲田メンタルクリニック益田先生の下記記事が詳しいです。

【参考】

精神科外来が「たった5分で診察終了」してしまう“まさかの理由”【精神科医の本音】

 

諸々の事情から診察時間が短くなり、短くなると話せる話題も絞られてきますので、優先順位の高い薬や精神疾患の話が中心の診察になるというわけです。本当はこのような制限なく、たっぷりと時間をとった診察の中で精神科医にいろいろなお話をできるようになればいいのになぁと思ったりしていますが、現実との兼ね合いが難しいところなんだろうなぁと思ったりします。

 

さて、「医師の診察はどうしても時間が短くなる傾向にあり、医師の役割上精神疾患や薬に関する話が優先されがち」ということをここまでお話してきました。しかしそうなると、「時間を多めにとって診察の中で話せなかった日常生活の悩みや不安を相談したい」という場合はどうしたら良いのでしょうか。そんなときご利用いただけるのが「心理士/心理師によるカウンセリング」になります。次は心理士/心理師によるカウンセリングについて一緒に理解していきましょう。

 

心理士/心理師の役割とは?カウンセリングとは?


まずは心理士/心理師によるカウンセリングとはなんぞや、というところから確認していきましょう。

 

最近よく聞く「カウンセリング」とは一体どういう行為を指すのでしょうか。

 

「カウンセリング」のもともとの意味は「相談」「助言」のことを指しますが、こころの診療におけるカウンセリングとは、医師やカウンセラー(心理士)が心の悩みを聞き、こころの専門家として指導や援助を行う治療のことを意味しています。

引用:e-ヘルスネット|厚生労働省

 

こちらは診察と違って医師も心理士/心理師も行うことができるわけですが、一般的にはカウンセリングと銘打つものはカウンセラーと呼ばれる心理士が行うことが多いようです。

 

カウンセリングの中で行うことは様々で、具体的な指示をすることもあれば、話を整理するだけのこともあり、受ける方の困りごとの内容によってオーダーメイドで作られていくものになります。時間の設定は場合によりけりですが大抵は30分~1時間程度で、長い時間が確保されています。時間の観点からいうと、カウンセリングのほうがたっぷり話す時間が確保できるわけですね。

【参考】

 

では次に、「心理士/心理師」の役割を見てみましょう。心理士/心理師は精神科においてどのような役割を任されているのでしょうか。現在日本には心理系の資格があふれていますが、世間的な知名度が高い資格として「臨床心理士」と「公認心理師」が挙げられます。

 

まずは、日本臨床心理士資格認定協会による「臨床心理士」の定義を確認してみましょう。

 

臨床心理士とは:

臨床心理学にもとづく知識や技術を用いて、人間の“こころ”の問題にアプローチする“心の専門家”です。

~中略~

しかし、医師や教師と異なることは、あくまでもクライエント自身の固有な、いわばクライエントの数だけある、多種多様な価値観を尊重しつつ、その人の自己実現をお手伝いしようとする専門家です。

~中略~

臨床心理士に求められる専門行為とは以下の4点などです。

①種々の心理テスト等を用いての心理査定技法や面接査定に精通していること。

②一定の水準で臨床心理学的にかかわる面接援助技法を適用して、その的確な対応・処置能力を持っていること。

③地域の心の健康活動にかかわる人的援助システムのコーディネーティングやコンサルテーションにかかわる能力を保持していること。

④自らの援助技法や査定技法を含めた多様な心理臨床実践に関する研究・調査とその発表等についての資質の涵養が要請されること

引用:臨床心理士とは|公益財団法人日本臨床心理士資格協会

 

では、次に厚生労働省による公認心理師の定義を確認してみます。

 

公認心理師とは:

公認心理師登録簿への登録を受け、公認心理師の名称を用いて、保健医療、福祉、教育その他の分野において、心理学に関する専門的知識及び技術をもって、次に掲げる行為を行うことを業とする者をいいます。

(1)心理に関する支援を要する者の心理状態の観察、その結果の分析

(2)心理に関する支援を要する者に対する、その心理に関する相談及び助言、指導その他の援助

(3)心理に関する支援を要する者の関係者に対する相談及び助言、指導その他の援助

(4)心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供

引用:公認心理師とは|厚生労働省

 

2つを確認してみていかがでしたか?

 

ざっくり簡単にまとめてみると、心理士(ここでは臨床心理士・公認心理師をまとめて心理士と表記します)は、「クライエントの日常生活の悩みや不安などに対して、専門的な心理学の知識や心理検査等の専門技術を用いて、心の問題にアプローチしていく」役割を担っているのが心理士といえます。心理士は医師免許を持っていないので診断・投薬はできませんが、精神疾患の有無に関係なく幅広い困りごとの相談にのることができます。また、カウンセリングでは時間の枠が固定で決まっていることが多く、じっくりと悩み事を相談できるのも特徴かもしれません。

【こちらもどうぞ】

現役心理職が解説|心の資格【公認心理師・臨床心理士】を紹介

 

医師の診察と心理士のカウンセリングの違い


さて、それぞれの定義について確認ができたところで違いについて簡単にまとめてみました。

 

精神科医心理士
資格医師免許(国家資格)公認心理師資格(国家資格)臨床心理士(民間資格)など
主に行なうこと診察カウンセリング、心理検査
主に取り扱うこと精神疾患や投薬に関することが多い日常の困りごと全般
長時間話せる?△(初診時はやや長め)
診断×
投薬×

 

大体の役割分担が分かったでしょうか?

  • 医師の診察→精神疾患に関することや生活リズムなど体の調子に関わること、薬の調整などの話をしたいとき
  • 心理士のカウンセリング→精神疾患の有無にかかわらず日常生活の困りごとや悩みを相談したい人、じっくりと話したいとき

と、明確な基準はありませんがこのような認識でご利用いただけると良いかもしれません。

 

ただ注意していただきたいのは、絶対に上記の話しかしてはいけないわけではないということです。今までの話を聞いて、「診察の中では精神疾患に関すること以外の悩み事とかは話題に出してはいけないんだ」と思ってしまう方もいるかもしれませんが、日常生活の悩み事も精神疾患を維持する要因として関わってくることもありますし、「これは話していいけどこれは話してはいけない」という基準は全くありません。

 

反対にカウンセリングの中で体調の話や薬の話をしてはいけない、というわけでもありません。むしろご自身が話したいと思ったことを話したいタイミングで話していただくことが治療上大切なことでもあります。精神科医にも心理士にも様々なことをお話いただいて大丈夫ですが、役割や時間の制限上、ご自分の求めていることができない場合がありますので、そこだけご注意いただければと思います。

 

皆さまには治療を選択する自由と権利があります。ご自分のニーズに合わせて診察とカウンセリングを上手くご利用していただき、より満足できる治療を受けていただけることを願っています。

 

【解説】

田っちゃん(公認心理師・臨床心理士

無性に辛い物が食べたいときにケーキを出されたら、そのケーキがいくら高級品で美味しいものだとしても満足感は得られないかもしれません。

満足感を得るためには「ここが自分の求めている治療が与えられる場所なのか」を考え、より自分の希望にあった治療を選択することが大切だと思います。

 

とはいいつつも、もしかしたら「案外ケーキもいいものだ」と新たな発見をする時もあるかもしれませんね。

田っちゃんブログ一覧

 

【監修】

本山真(代表取締役社長)

精神科医師/精神保健指定医/日本医師会認定産業医/医療法人ラック理事長

2002年東京大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部付属病院で研修。川越同仁会病院、不動ヶ丘病院の勤務を経て、2008年埼玉県さいたま市に宮原メンタルクリニック開院。2016年には医療法人ラックを設立し綾瀬メンタルクリニックを開院。2019年株式会社サポートメンタルヘルス設立。

 

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