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産業医監修|職場におけるパーソナルスペースから考える快適なオフィス空間

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2024年8月16日

最終更新日 2024年8月23日

職場のパーソナルスペースから快適なオフィス空間を考える

2020年以降続いていたコロナ禍により、働き方の多様化が促進され、リモートワークという新しい働き方が浸透しました。感染状況の改善に合わせて、出社型への引き戻しが起きたり、職場という環境の持つ魅力が再度脚光を浴びています。また、就職市場においても、入職後職場に感じる魅力として、職場の環境・雰囲気が2位となっているデータもあり、職場の空間の快適さが新卒世代に重要視されているようです。

今回のコラムでは、人との距離感という視点で快適なオフィス空間をつくる”パーソナルスペースから考える快適なオフィス空間づくり”について考えていきたいと思います。

 

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パーソナルスペースとは?


パーソナルスペースとは「人に侵入されると不快に感じる空間」のことで、渋谷昌三(1990)は「人の体を取り巻く、目で見ることのできない空間領域である」と定義しています。

 

ひとには、それぞれの持つ心理的、物理的なテリトリーが存在しています。そのエリアに人が侵入すると不快に感じるようになります。その心理的なテリトリーに着目したものがパーソナルスペースになります。パーソナルスペースに人が侵入すると、姿勢が硬直する傾向があり、緊張感や不安感から姿勢に対する影響があると言われています。パーソナルスペースが保つことは働く人のメンタル面や仕事のパフォーマンスへの影響は少なからずあるものと考えられます。

 

相手や場面によって変わるパーソナルスペース


渋谷(1990)はパーソナルスペースにも相手や場面によって違いがあり、一般的に4つの距離感覚があると提唱しています。具体的な4つの距離感覚「親密距離」「個人距離」「社会距離」「公衆距離」についてご紹介します。

 

  • 親密距離:「密接距離」とは、「家族や恋人など極めて親しい関係性の人に許される範囲」であり、一般的に0cmから45cmまでの距離感のことと言われています。会話だけでなくスキンシップもできる距離で、子どもなどの養育において保護する距離でもあります。
  • 個人距離:「個人距離」とは、「友人や親しい同僚の間」でのパーソナルスペースであり、45cmから2mまでの距離感のことを指します。お互いの表情が読み取れるかつ、手を伸ばせば触れられるような距離ですね。
  • 社会距離:「社会距離」とは、「同僚や上司、仕事先の人と接する際」のパーソナルスペースであり、だいたい2mから3.5mまでの距離感と言われています。仕事の会議や打ち合わせなどのビジネスの場面が当てはまります。
  • 公衆距離:「公衆距離」とは、「関係性が構築されていない公衆の場」でパーソナルスペースであり、5m以上の距離感のことを指します。講演会や演説などの公的な場面でよく見られる距離感であり、相手の顔や表情がよく見えないため、個人的なやりとりはできない距離です。

 

相手や場面によって侵入されると不快だと感じるスペースには違いがあることがわかります。この距離感覚を「オフィス空間」という環境に当てはめると、「個人距離」や「社会距離」が保たれたオフィス空間づくりが、働く人の不快感に関係することをご理解いただけるかと思います。

 

また、上記距離感の分類は平均値であり、パーソナルスペースの広さは人によってさまざまです。一般的に男性の方が女性よりパーソナルスペースのが広く、前方へのパーソナルスペースが後方へのパーソナルスペースに比べて広いと言われています。一方で、女性は比較的前後左右均等なパーソナルスペースになることが多く、相手との関係性によってパーソナルスペースが大きく左右される傾向があります。

 

私のパーソナルスペースってどれくらい?測ってみよう!


パーソナルスペースの測り方は以下の通りです。

測りたい距離感覚の相手に離れたところから歩いて近づいてきてもらい、違和感を感じるところで合図を送ってもらいそこで止まってもらいます。そこまでの距離を測定することでパーソナルスペースを図ることができます。

“職場において測定された距離”であれば、測定された距離感覚は「社会距離」となります。職場の同僚などにやってもらうと適切な距離感がわかるかもしれません。

 

パーソナルスペースに着目した快適なオフィス空間づくり


実際に人との距離感に着目し、机のサイズを140cmにして机の配置を互い違いにすることで、仕事に集中しやすく、適切なコミュニケーションは取りやすい距離感を実現することで生産性の向上につなげた企業事例もあり、パーソナルスペースに着目したオフィス空間づくりは、オフィス環境の改善におおいに有効なものだと思われます。

 

なお、パーソナルスペースは相手だけではなく、環境によっても変化します。

例えば、光の色では色温度が高いほど(蛍光灯など青白い色に近づくと)パーソナルスペースは広く(不快に感じやすい距離が広がることに)なります。また、部屋の温度では、室温が25度の時が最もパーソナルスペースが狭くなり、30℃や20℃といった気温ではパーソナルスペースは広くなるという研究があります(石田・糸井川 2022)。他にも、室内のにおいによってもパーソナルスペースに影響があることが指摘されています(立川・大坊 2000)。

関連項目:医師監修|パフォーマンスから紐解くにおいとメンタルヘルスの関係

 

このように、様々な要素によって人が不快に思う距離感は変動します。様々な環境要因を働く人に合わせた空間づくりに取り込んでいくことで、「場所が狭いから距離感を作るなんてムズかしい…。」といった、空間自体に制限がある場合でも働きやすい空間づくりが可能だと考えられます。

 

例えば、照明については個人でパフォーマンスを向上させる必要がある状態で用いる場所では明るめの色(蛍光灯に近い色4000K近くが良いとされています)、人と距離が近くなる会議室等では少し暖色系の色にすることで、人が近くにいることへの不快感を軽減することができるかもしれません。

また、室温についても一定に保ったり快適な温度を維持することが、働く人の働きやすさやメンタルに大切なことであるため、意識的に取り組むことが働きやすい環境づくりのために望まれると考えられます。

 

職場におけるパーソナルスペース・快適さは人それぞれ


パーソナルスペースには個人差や性差があると言われています。自身のテリトリーが広い人もいれば狭い人もいます。そのような個人差に配慮した環境整備・空間づくりが必要になります。パーソナルスペースに個人差があるように仕事に集中しやすい空間やコミュニケーションの取りやすい空間にも個人差があることが想定されます。多様性に合わせて、はたらく人がより自分に合った環境を選択できるように働く人が環境を選べる「選択肢」を作ることも大切です。

 

例えば、適度な距離がある「通常ブース」・仕切りで囲まれた「集中ブース」・他者を気にせず過ごしやすい「解放ブース」など使い分けのできる環境をつくることも有効です。また、椅子やテーブルの材質や性質に選択肢をつくり、はたらく人の特徴に合った環境を提供することで作業の効率化や長期的な生産性の向上につながっていくことも考えられます。企業の状況に合わせた環境づくりで、はたらきやすい環境を作っていきましょう。

 

引用文献


  • 石田あずみ・糸井川高穂(2022). 室温および色温度がパーソナルスペースに与える影響 人間‐生活環境系学会シンポジウム報告集 46 (0), 105-106
  • 渋谷 昌三(1990).人と人との快適距離―パーソナルスペースとは何か― 日本放送出版協会
  • 立川一義・大坊郁夫(2000)香りの心理学的研究(2)―フレグランスのパーソナルスペースへの影響― 日本化粧品技術会誌34巻3号p.307-309
  • 中村美穂・安倍美幸・大久保瑶子・亀岡萌子・渡辺咲帆・渡邉観世子(2016). パーソナルスペースの侵害による姿勢の安定性の変化 関東甲信越ブロック理学療法士学会 35巻 p.245
  • 三菱UFJ信託銀行不動産コンサルティング部(2020)ワークプレイスが創る会社の未来―成功企業に学ぶ戦略とオフィスのこれから― 日経BP社 
  • 【入社後に感じた魅力第1位は◯◯】KC新卒入社3年目までの社員に聞きました。 | 株式会社カシワバラ・コーポレーション(2024/04/26 閲覧)https://www.wantedly.com/companies/company_110782/post_articles/419047      

 

【解説】

俊介(公認心理師・臨床心理士)

日本には間合いという言葉があります。間合いとは相手とのちょうどよい距離のこと指すことばのひとつです。いい間合いがとれることを目指しながら、いい間合いが取りやすい環境づくりをすることが人間関係を円滑にする一助になるかもしれませんね。それぞれの企業に合わせた間合いの取り方を探ることが必要な時代かもしれません。

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【監修】

本山真(株式会社サポートメンタルヘルス代表)

精神科医師、精神保健指定医、日本医師会認定産業医

東京大学医学部卒業後、精神科病院・精神科診療所における勤務を経て、埼玉県さいたま市に宮原メンタルクリニックを開院。医療法人ラック理事長として2018年東京都足立区に綾瀬メンタルクリニックを開院。2019年メンタルクリニックにおける診療から見えてくる社会課題を解決するため株式会社サポートメンタルヘルス設立。

 

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