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産業医監修|フリーランスが切り拓く新たな働き方ーエージェントの社会的意義ー

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2024年10月28日

最終更新日 2024年10月29日

フリーランスが切り拓く新たな働き方におけるエージェントの社会的意義とは?

 2024年11月施行のフリーランス新法に象徴されるように、フリーランスという働き方は急速に広がり、多様性社会においてその社会的な意義が増しています(関連項目:多様性の力を引き出すフリーランス活用|職場文化とメンタルヘルスの新たな可能性)。時間や場所に縛られない働き方によって、育児や介護、病気やケガなどのライフイベントにより従前は働くこと自体をあきらめるしかなかった人たちも社会で活躍することが可能になるわけです(参考:精神科産業医監修|ワークライフインテグレーションとは何か?)。果たしてフリーランスという働き方の拡大は、社会や経済にどのような影響を与えるのでしょうか。新しいムーブメントを推進するにあたっては、メリットだけはなくリスクにも着目すべきでしょう。

 

本コラムでは、フリーランスという働き方の持つ可能性に着目しつつ、エージェントの役割や、社会的・経済的にどのような課題が生じ得るかについて検討します。

 

 

フリーランスのメリットとリスクー自由な働き方の光と影


フリーランスにおいて最大のメリットは働き方の自由度です。『自身のペースで仕事を進めることのできる自由さ』、『スキルや興味に応じたプロジェクトを選択できる自由さ』は、企業に雇用されている立場では実現不可能に近いものです。特に、クリエイティブ職やエンジニアなど専門的なスキルを持っている人にとって、組織のキャリアパスにとらわれないチャレンジが可能である点は魅力的ですよね。

参考:フリーランス白書2024

 

ここで注意すべきポイントは、フリーランスの自由度は安定とトレードオフになりがちであることです。企業に雇用されている場合においては、社会保険や厚生年金といった法定福利厚生や年に1回の健康診断といったセーフティーネットが用意されているわけですが、フリーランスは、基本的に自己責任のうえでリスクヘッジを行なう必要があります。キャリアについても、自身の裁量性が高いということは、不透明であるということと同義です。加えて、雇用されている従業員と比較し、フリーランスには孤立や孤独がつきものであり、他人との交流が少なくなりがちです。結果として、メンタルヘルス上の問題が出現するリスクが高まります(関連項目:【産業医監修】フリーランスのメンタルケア|孤独感を乗り越えるための対策ガイド)。

 

重要なポイントは、フリーランスに伴うリスクを充分に理解したうえで、リスクにいかに対処するか、きちんと対策を立てることだと言えます。

 

エージェントの重要な役割ーフリーランスと企業の橋渡し


フリーランスという働き方を社会全体に広めていくうえで、エージェントの果たす役割は非常に重要だと言えます。エージェントはフリーランスとクライアント企業の橋渡し役を担い、当該フリーランスにとって適切なプロジェクトやクライアント企業とのマッチングを行ないます。つまり、エージェントは単なる業務の仲介者に留まらず、フリーランスのキャリア形成をサポートする戦略的なパートナーだと言えます(参考:【産業医監修】フリーランス新法対応|エージェントのためのハラスメント対策ガイド)。

 

エージェントがフリーランスに与える影響についても、注意すべきポイントを整理しておきましょう。一つはエージェントを利用することに伴う経済的コストです。プロジェクトやクライアント企業とのマッチングにかかる手数料によって、フリーランスの収入は圧迫されます(これを必要経費と考えるか、コストと考えるかは、フリーランス自身の営業力によるかもしれません)。

 

フリーランスの社会的価値ーイノベーションとリスクの狭間


フリーランスという働き方は、社会全体に大きな影響を与えます。マクロな視点で整理をしてみましょう。まず、フリーランスという働き方は、専門スキルを自由に発揮することができます。つまり、これまでの組織文化においては日の目を見ることのなかった才能やアイデアが表に出る機会が増えるわけです。新たなイノベーションの創出や、企業の枠にとらわれないプロジェクトの発展が期待できます。

 

一方で、フリーランスの拡大は、雇用の安定性に悪影響を及ぼす可能性があります。フリーランスのメリットでもある柔軟性のある働き方は、企業からすれば、法定福利厚生や雇用保険など正規雇用に伴うコストを抑えることができるということでもあります。結果として、労働市場全体が不安定化することが予想されます。

 

先にも述べたとおり、フリーランスには様々な場面において自己管理が求められます。企業や組織においては、定期的な研修やトレーニング、キャリアアップ支援が行われることが一般的ですが、フリーランスは自らその機会を捻出しなくてはなりません。フリーランスのキャリア支援を担うのがエージェントなのかそれとも社会なのか検討の余地はありますが、『フリーランスをいかに育成するか』について、社会全体で考える必要があります。

 

フリーランスを支えるエージェントが押さえておくべきポイント


フリーランスの拡大が社会全体に及ぼす好影響・悪影響、両側面を理解いただけたかと思います。フリーランス拡大において重要な役割を担うエージェントですが、エージェントがフリーランスとの協働において押さえておくべきポイントを整理しておきましょう。

 

まず、『フリーランスが求めるものは自由度と柔軟性であること』を充分に理解し尊重する姿勢が重要であり、エージェントは、フリーランスが働きやすい環境を提供することが求められます。これはフリーランス新法においても『就業環境の整備』として義務化されています。具体的には、フリーランスのライフイベント(育児や介護)との両立を考慮すること、プロジェクトを超えて主従の関係にならないことが該当します。

 

 

また、フリーランスは、スキル向上のための研鑽に加え、セルフブランディングについても日々努力を重ねているものです。エージェントはフリーランスの持つブランド価値を理解し、適切に評価することが不可欠です。フリーランスから選ばれるエージェントになるために、フリーランスの持つスキルに加え、ブランド価値についても目を向けていきましょう。

 

フリーランスの未来を見据えてー社会全体で取り組むべき課題


今後、フリーランスという働き方はさらに拡大し、多くの人々が自由度や柔軟性を求めてフリーランスを選択することが予想されます。働き方の多様性を保証するうえでも、フリーランスの拡大は望ましい流れだと考えます。社会全体としては、フリーランス拡大に伴うメリットに加えて、フリーランスの増加に伴うリスクや課題に目を向ける必要があります。労働市場全体がどのように変化し、雇用の安定性が維持されるのかは重要な課題です。

 

フリーランス新法施行により、フリーランスの権利保護強化が期待されますが、同時に企業やエージェントに発生するコストも見過ごせません。コストカットのためフリーランス活用控えにつながっては元も子もありません。フリーランス増加の流れにおいて、フリーランスの教育やトレーニングの機会がどのように提供されるのかも重要な問題です。フリーランスという働き方の成功はスキルの維持や向上に依存していますが、自己研鑽だけに依らず、誰がどのように支援していくかは、社会全体の課題と言えるでしょう。

 

【監修】

本山真(医師)

2002年東京大学医学部医学科卒業。2005年日本医師会認定産業医取得。2008年精神保健指定医取得。

『働く人を応援する精神科・心療内科クリニック』2院を運営する医療法人ラック理事長。

メンタルヘルスサービス全般に対する心理的なハードルを解消するため、2019年株式会社サポートメンタルヘルス設立。

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