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タグ : ふ~みん(公認心理師) , メンタルヘルス , メンタル不調・精神疾患解説
2025年1月10日
目次
嘔吐を一度でも経験したことのある方であれば、吐くことの辛さはよくおわかりだと思います。今回取り上げるのは、『吐くかもしれない』ことへの恐怖、時につわりによる吐き気や嘔吐を恐れるあまり、結婚や妊娠を思いとどまらせることもあるほど生活に支障をきたす嘔吐恐怖症です。嘔吐恐怖症の症状や治療法について解説します。
【解説】 ふ~みん(公認心理師)
【監修】 本山真 医師、精神保健指定医、日本医師会認定産業医 東京大学医学部卒業後、精神科病院・診療所での勤務を経て、さいたま市に宮原メンタルクリニックを開院。現在は株式会社サポートメンタルヘルス代表に加え、2院を運営する医療法人の理事長としてメンタルヘルスケアに取り組んでいる。 |
まず嘔吐恐怖症とは、吐き気、吐きそうな状況、自分が人前で嘔吐することや他人の嘔吐を見ることなどに対して強い恐怖を感じる病気です。パニック障害と同じ不安障害に分類される限局性恐怖症の一種とされています。
より細かく説明しますと、不安障害とは、だれもが持っている不安や心配、恐怖心が過度になりすぎて日常生活に支障をきたしている状態をさします。さらに限局性恐怖症とは、特定の状況、環境、または対象に対して、非現実的で激しい不安や恐怖感が持続する状態のことで、特定の活動や状況を避けるようになるため日常生活に支障が生じていることを言います。高所恐怖症や閉所恐怖症などは一般的にもよく知られている限局性恐怖症の一種です。
嘔吐恐怖症は、パニック障害と診断を受けている人がパニック発作の1つとして発症したり、過去に人前で嘔吐したなどの経験が引き金となり不安が喚起され発症したりすることもあるようです(関連項目:【ぞわぞわ…】精神科医監修パニック障害対策ブログ【そわそわ…】)。ただし嘔吐恐怖症を発症してから実際に嘔吐した経験がある人は少ないとも言われています。
嘔吐そのものだけでなく吐き気にも恐怖を感じるので、他人との会食、電車や飛行機に乗ることなど気持ち悪くなったら困りそうな場面や経験上吐き気を連想させる場所があると、それらを避けて行動するようになります。その結果社会生活や人間関係がうまくいかなくなったり、引きこもりがちになったりします。重症化すると「嘔吐」という文字を見ただけでも気分が悪くなったり、えずくのを恐れるあまり歯磨きすらできなくなったりすると言います。そのような状態に陥っている人は、もしかしたらこの文章もつらくて読み進められないかもしれません。
一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会の調査によると、嘔吐恐怖症になったきっかけとして一番多いものは“自分自身が嘔吐した経験”だそうです。ほぼ同率での2位は“嘔吐しそうな強い吐き気を感じた”こと。少数派では自分や他人が嘔吐した際に強く怒られたために「また同じことになったら/今度は自分があの子の立場になったらどうしよう」と不安を感じてしまったという例も挙げられていました。
また、発症時期については小学生頃が最も多く、次いで19歳以降、中高生頃と続きます。学校生活場面で起きた何らかの体験がきっかけとなるケースが多いようですが、何となく嫌な気持ちを抱えながら大人になり、初めて障害に該当する症状だったのだと気付く人もいるようです。
では、嘔吐恐怖症に対する治療法とはどのようなものなのでしょうか。
一般的に不安障害やPTSD(※)の治療には曝露(ばくろ)療法が用いられます。曝露療法は、原因になる刺激に段階的に触れることで不安を消していく方法です。刺激に触れても大丈夫だったという経験を繰り返し治療者と確認していくことで、心身が過剰な反応をしなくなります。そうすると、避けていた場面を避けなくても良くなるので行動範囲が広がったり生活上の制限が少なくなったりします(参考:【精神科医監修】怖くて不安?恐怖症性不安障害とは?)。
嘔吐恐怖症の場合、実際の嘔吐現場や吐しゃ物に触れるのは難しく、またそのような場面に直面するには相当な覚悟が必要ですが、まずは「嘔吐」という文字を一定の時間見ることや具合が悪そうな人物が描かれている絵を見ることなどから開始します。軽度な刺激に慣れ、段階が進んでくると、VRや映像を利用して現実場面に近い状態を体験することもあります。専門的に治療を行っている病院もあるようですよ。
しかし、もし嘔吐に関する明らかなトラウマがあるのでしたら、まずはそちらへのアプローチを優先させる認知行動療法(TF-CBT)を受け、トラウマについての知識を得たり感情や心身を緩める方法を学んだりすると楽になれるかもしれません。
※PTSD:心的外傷後ストレス障害(Posttraumatic Stress Disorder)の略。災害や事故、犯罪被害など生死に関わるような体験をし、強い衝撃を受けた後で、その体験の記憶が当時の恐怖や無力感とともに自分の意志とは無関係に思い出され、まだ被害が続いているような現実感を生じる病気です。通常、体験直後から数週間程度そのような状態が続くことは普通だと考えられていますが、1ヶ月を超えてもなお症状が継続し生活を妨げられるような状態の際に診断されます。
他には不安や緊張、筋肉のこわばりをほぐす薬、吐き気止めなどを服用する薬物療法も有効です。身体症状が強い場合や西洋薬にはちょっと抵抗があるというときには漢方薬を試してみるのも良いかもしれません。カウンセリングを受けることや他者に自身の体験を共有することで気持ちを落ち着かせる方法もあります。自分の重症度(嘔吐恐怖症によってどれ位自分の生活に支障があるか)などを理解し、それに合った治療法を見つけられれば改善の兆しが見えてくるでしょう。
それほど多くはありませんが、嘔吐恐怖症に関する書籍も発行されています。知識を得ることが安心感につながる場合もありますので、気になる方はぜひ読んでみてください。また今ではインターネット上にあふれるほどの情報が出ています。その全部を鵜呑みにすることはおすすめできませんが、目にとまりがちなマイナスな内容だけではなく「克服した」「会食が怖くなくなった」などプラスの意見も参考にしてみると少し希望がもてるのではないでしょうか。