2024年11月20日
初回カウンセリングをご希望の方はこちら
オンラインカウンセリングログイン
資料ダウンロード
タグ : メンタルヘルス対策 , 産業精神保健 , 籔(公認心理師・臨床心理士)
2023年2月10日
最終更新日 2024年1月23日
目次
ビジネス領域では「コーチング」という言葉をよく耳にします。役職が上がるタイミングで「コーチング受けてみたら?」と上司から勧められる方もいらっしゃるでしょうし、ご自身でスキルアップの方法を調べてコーチングに辿り着く方もいらっしゃるでしょう
ーとはいえ、コーチングで調べると色々と情報が出てきて、正直コーチングとは何なのかよくわからない…
今回はコーチングについて、近縁のアプローチ(ティーチングとカウンセリング)との比較を通じて解説していきたいと思います。
専門職によるLINE友だち限定無料セミナー毎月開催催中!友だち登録どうぞ!
※なお、コーチングもカウンセリングも「正しい在り方」や「正しい実施方法」について単一の回答があるわけではありません。ご承知おきください。
【執筆】 籔(公認心理師・臨床心理士) 対象を愛でる。それ以上でもそれ以下でもないわけで、オタクでもマニアでもファンでも名称って何でも良いじゃないですか?コーチングとティーチングとカウンセリングの違いもそういうことだと思うんですよね。違う。 |
コーチングの解説に入る前に、コーチングの歴史を辿ってみましょう。
皆さんは「コーチ」という言葉を聞いて何を思い浮かべるでしょう?辞書的な意味として「コーチ(Coach)」は「訓練・指導する人、家庭教師、監督」などの意味を持っています。スポーツの世界では、監督や指導者のことをコーチと呼んだりしますね。コーチの語源は、ハンガリーの町の名前だといわれています。この町で作られた乗り物が、町の名前をとって「コチ(Kocsi)」と名付けられます。Kocsiを由来として英語の「コーチ(Coach)」に繋がったそうです。コーチは「人を目的地まで運ぶ乗り物」から転じて「人を目的まで導く者」という意味になり、教育やスポーツの分野で指導者や教員のことをスラング的に「コーチ」と呼ぶようになりました。
そんな「コーチ」という概念がビジネスやマネジメントの分野に取り入れられるようになったのは1950年代から。ハーバード大学のMyles L Mace教授が、自身の著書の中で「コーチング」という言葉を用いて言及したのが起源と言われています。ちなみにコーチングが日本に導入されたのは1990年代以降です。コーチング概念が拡大するきっかけとなったのがカルロス=ゴーン氏。日産自動車にて社長を務めていた時代の『私は日産のコーチだ』という発言に覚えのある方もいらっしゃるのではないでしょうか?既存の人材育成方法に限界を感じていた日本の各企業は、『コーチング』という新しい手法を取り入れるようになりました。
国際コーチ連盟によると、コーチングは以下のように定義されています。
思考を刺激し続ける創造的なプロセスを通して、クライアントが自身の可能性を公私において最大化させるように、コーチとクライアントのパートナー関係を築くことです。
対話を重ね、クライアントに柔軟な思考と行動を促し、ゴールに向けて支援するコーチとクライアントとのパートナーシップを意味します。
つまりコーチングとは、コーチがコーチングを受ける人(クライアント)に対しやる気を出す方法などを教えるといった性質のものではなく、クライアントの自発的な行動を最大化するためのコミュニケーション方法だと言えます。
ビジネス場面におけるコーチングの最大のメリットは『従業員が主体的に働くようになること』です。自ら課題を模索し自発的・主体的に動くことのできる人材へと成長する効果が期待されます。また、コーチングは従業員個人の意欲や目的意識を刺激するため、業務に対するモチベーションが向上する可能性を高めます。結果として組織の生産性が高まるという点も大きなメリットだと言えるでしょう。
一方、コーチングの最大のデメリットは従業員の意識変容に要する時間が読めないことだと言えます。つまり、コーチングは即時的な効果が期待しづらいのです。コーチングのクライアントである従業員が、どのタイミングで自発性・主体性が発揮できるようになるか、従業員の自発性や主体性がいつ結果へとつながるかについては運の要素も介在しますからケースバイケースです。また人にはそれぞれのペースがあるもの。個人のペースを無視して、無理やり結果や成果に結びつけようと考えること自体、コーチングとは真逆のコンセプトだと言えます。具体的な期日の決まっている業務や、経営に関わるスピーディーな成果が求められている場面に対するアプローチとしてコーチングは不向きだと言えるかもしれません。
やや概念的な説明が続いてしまったので、コーチングを具体的に理解していきましょう。コーチングと近縁のコミュニケーション手法との相違点を明らかにすることで整理していきましょう。まずは、コーチングとティーチング(teaching)との比較です。名前の通りティーチングとは元々ある答えに向かって問題解決する能力を教えること・教育することです。知識を伝達したり、経験を積ませたり、といったアプローチを通じて『問題解決ができるようにする』ことが目的となります。
一方で、コーチングはクライアント自身が自分に可能性を見出し、可能性に向けて力を発揮する(行動する)ことを支援する関わりです。コーチが答えを持っているわけではありませんから、当然クライアントに答えを教えることはできません。クライアント自身の気づきを促し、本人のモチベーションに従った目的行動を活性化させる結果につながるのであれば、その関わりこそがコーチングといえるでしょう。優劣や是非の問題ではなく、ティーチングが必要な場面とコーチングが必要な場面とそれぞれありそうな感じがしますね。
なお、コーチングの大きな目的は概ね上述の通りですが、コーチングの具体的な方法となると、教育研修機関によって違いがあるようです。対象を管理職に的を絞ったり、領域をビジネス特化にしていたりと、各種機関によって特色が見られます。コーチングとは、基本的にはコミュニケーション手法ですから、コーチングを用いる領域やコーチングの対象となるクライアントの違いによって実践方法が異なるのは自然なことだと言えるかもしれません。 |
コーチングにおいては、クライアントの自己開示を「聴くこと」が重要となるため傾聴のスキルが求められます。
ー解決法や解決の仕方を教えるわけ(だけ)ではない
ー傾聴をする
コーチングとカウンセリングとはどう違うのか?と疑問に感じる方もいらっしゃるかもしれません。
【参考】
カウンセリングは「ともに考慮すること」を意味するラテン語のConsiliumが語源となっており、英語の「Counsel」は「助言する」といった意味を持ちます。広義では『カウンセリングとは専門知識をもとにした相談援助』に用いられる言葉で、分野も経済から美容まで幅広くカバーできる言葉です。エステなどで「無料カウンセリング」と書かれているときの「カウンセリング」はこの意味で使われています。「美容の専門知識を持った人が相談に乗って援助します」ということですね。
本ブログにてコーチングとの比較対象として取り扱うカウンセリングは、狭義のカウンセリング=心理的な相談援助行為のことを指しますが、具体的には「相談者が困っていること、悩んでいることなどを解決する手助けをする」援助だと言えます。心理カウンセリングについては、歴史と共に様々な支援方法や学派が興隆しており、一概に「カウンセリングとは」とまとめられません。積極的に助言をする「指示的アプローチ」もあれば、傾聴に重きをおいた「非指示的アプローチ」もあり、その手法も様々です。「精神分析的心理療法」「認知行動療法」「来談者中心療法」など、メンタルヘルスに関心のある方なら一度は聞いたことがおありかもしれないアプローチもカウンセリングという枠組みの中で取り扱われます。「カウンセリング」という名称がカバーしている範囲はとてつもなく広く、カウンセリングという用語を使う人、使う場面によって意味が異なることが多くあります。
【参考】
認知行動療法とは?認知再構成法と行動活性化【精神科医監修✕公認心理師解説】
【共感とは?】心理学の観点から共感を理解する|精神科医監修ブログ
様々な手法・学派が存在するため何を中心に据えるかは難しいのですが、共通するのは「心理的に困っていることや悩んでいることへのアプローチ」という部分です。心理カウンセリングにおける「困りごと」は、それこそ日常的な悩みから医療機関への通院や服薬が必要なものまで幅広くあります。比較してみると、コーチングはカウンセリングのように「困りごとの解決」に焦点を当てるものではありません。自発的な行動が活性化する結果として、いわば副次的に「困りごとも解決する」ケースも当然あるわけですが、あくまでもクライアント自身が主体的に行動できるようになるためのお手伝いという位置づけです。
コーチングは困りごと解決がメインの目的ではないため、基本的には心身ともに健康な方を対象(適応)としている機関が多いように感じます。コーチング手法は多々あれどいずれも「思考を刺激する」アプローチであるため、メンタル不調の際は、コンディションを更に悪化させてしまうかもしれません。特に、現在医療機関へと通院している方は、必ず主治医にコーチングを受けても問題の無い状態かを確認したうえで、担当コーチの判断を仰ぎましょう。
今回は、ティーチングやカウンセリングとの比較を通してコーチングを解説しました。コーチングであってもカウンセリングであっても、重要なのはそれらを通じて自分が何をしたいのか?自分はどうなりたいのか?ということでしょう。目的は「コーチング/カウンセリングを受けること」それ自体ではありませんよね。コーチング・カウンセリングはじめ、世の中には目的と達成するための様々な手段が存在します。手段が豊富だからこそ、自分には何が合っているのかよくわからなくなる方もいらっしゃるでしょう。まずは「これがしたいんだけど…」ということ自体を相談してみることを最初の一歩にしてみてもよいのかもしれません。