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タグ : maitake(臨床心理士) , メンタルヘルス , メンタル不調・精神疾患解説
2022年3月31日
最終更新日 2024年9月13日
恐怖症性不安障害という言葉をご存じでしょうか?一見、物々しい印象をおぼえるような言葉ですが、かつては神経症と言われていたような症状を指します。こちらのブログでは恐怖症性不安障害の原因や診断、対策について精神科医監修のもと、臨床心理士が解説します。
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恐怖症性不安障害。字面が与えるインパクトが強いですよね…。恐怖症と名のつく状態像はその対象を元に様々な分類があります。具体的には、ヘビが怖くて、見かけただけで逃げだしてしまいたくなるとか(動物恐怖症)、社内の朝会でのスピーチをすることに恐怖・不安・強い緊張を覚えたり、人にどう思われるかを過剰に心配し、コミュニケーションを避けたり(社交恐怖症)、電車など決まった場面で不安になり、動悸や息苦しさが出たり(広場恐怖症)、理由があるわけではないけれど、なんとなくすべてが心配で不安な状態だったり等…。
種々の恐怖症に共通しているのは、「(特定の何かに対して)強い不安をおぼえる」ことだと言えます(対の概念は全般性不安障害。あれもこれも不安という状態です)。ちなみに、不安感や恐怖感は生きていくうえで必要不可欠な感情ですので、全否定する類のものではありません。不安や恐怖といった危機管理に関する感情が無くなってしまうと、危険に気付かず大ケガしかねません。特に、野生の世界において危険察知は命にかかわる重要な機能です。
関連項目:【ストレスってなに?】ストレスとの上手な付き合い方
人間は、進化の過程において複雑なことを考えたり理性を働かせたりする脳部位(前頭前皮質)が発達しましたが、当然ながら原始的な部分も残っています。この原始的な部分の一つに扁桃体(へんとうたい)という部位があります。この部位が不安感や恐怖感に関わる部分と言われており、働きが活発になるほど不安恐怖が強くなります。
恐怖状態とは脳の原始的な部分で起きていること、つまり、生きものとして必須の危機管理機能が過剰になっている状態です。理性としては『落ち着こう』としますがなかなかコントロールが難しい、『分かっているけど怖い』状態です。身を守るために必要な危機感であればよいのですが、危機感が過剰になってしまうと不便です。現代社会では『毎日常に命の危険を感じるシチュエーション』ってほぼないですからね。
先ほどの例でいうと、ヘビは、確かに噛まれると害がある生き物ですが、全てのヘビが噛んでくるわけではありません。しかし、過去に噛まれて怖い思いをしたとか、そういう場面を見たなどの嫌な思い出がある人にとっては、脅威になってしまいます。もっと原始的な視点では、ヘビ=無条件に人類の敵!という気持ちを引き起こされる方もいらっしゃるかもしれません。とはいえ、同じものを見ても脅威だと感じない人もいます。ヘビをスピーチに置き換えても同じように言えるでしょう。
周りの人々にとっては「そんなに嫌がることないのに」と思われることが、ご本人にとってはとても嫌なことです。自然と、それに遭遇するような状況やシチュエーションを避けたい!と思うようになります。とは言え、世の中は予測できないことだらけ。完全に避けることは難しいでしょう。「安心して生活できなくなってしまう状態」が恐怖症性不安障害の実像です。不安に感じる対象は人それぞれで、不安・恐怖の表出も様々ではありますが、共通しているのはこういった点と言えるでしょう。
【参考】不安症 / 不安障害 – e-ヘルスネット|厚生労働省
こちらのブログでは不安感と恐怖感、併記してほぼ同義として使用していますが、専門的には、不安と恐怖は区別されています。大まかに言えば、不安は対象が漠然としたもの、恐怖は対象が特定されているものを指します。
精神医学会においては、恐怖症概念が不安症概念へと変遷した疾患がいくつかあります。社交(社会)恐怖を例にあげてその歴史を説明してみましょう。 社会恐怖(Social Phobia)は社交場面、対人場面に対する恐怖をまとめた概念であり、日本では対人恐怖症としてよく知られていた概念です。疾患概念の指す『社会』とは特定のものなのか?スピーチや会議、会食など種々の広範な社会活動を指すものだよね?『社会恐怖』ってネガティブなイメージを想起させやしないか?といった議論を経て、1994年に刊行された精神疾患の診断基準DSMの第4版より社会恐怖には社会不安障害が併記されるようになります。 その後、Social anxiety disorderのSocialを『社会』と訳すか、より実態に即した『社交』と訳すか(社交ダンス=Social Danceの社交です)といった議論を経て社会不安障害は社交不安障害(社交不安症)へと名称変更を果たします。 メンタル疾患の変遷には、種々の知見の蓄積に加え、社会への影響も踏まえ変更がなされているんですね。 |
では恐怖症性不安障害はどうして生じるのでしょうか?原因としては以下のようなことが考えられます。
一つ目は、過去にそれに関することでとても嫌な体験をしその記憶から拒否しがちになることです。「犬に噛まれたから犬が怖い」は、まさにこれです。その時の記憶が似たような状況や事柄によって喚起され不安になることを心理学で「般化」(はんか)といいます。般化すればするほどNGなものが増えてしまいます。
もう一つの原因は(鶏が先か卵が先か難しい話ではありますが)セロトニン不足です。セロトニン不足はうつ病や各種不安障害にて採用されている仮説であり、不安・焦燥感が生じる原因と考えられています。
メンタルの不調を診断する際、ポピュラーに用いられている国際的なものさしとしてDSM-5があります。DSM-5には恐怖症性不安障害という診断名は存在しないため、恐怖症に絞って説明しましょう。DSM-5には『広場恐怖症』、『醜形恐怖症』、『限局性恐怖症』の3つが掲載されています。
広場恐怖症とは、かつてはパニック障害に伴うケースがあるとしてまとめられていた恐怖症です。DSM-5からは単独の恐怖症として整理されています。不安を感じたときやパニック発作が生じたときに咄嗟に逃げられない、助けを求められない場所を恐怖に感じる状態を指します。満員電車や渋滞の車内に恐怖を感じるというイメージです。
醜形恐怖症とは、正常な外見を欠点があると感じてしまい生活に支障が生じる恐怖症です。身体醜形障害とも呼ばれます。
限局性恐怖症は、本ブログで取り上げている恐怖症性不安障害に該当する恐怖症です。診断におけるポイントは、恐怖を感じる対象を避けたり耐えたりしていて生活に支障が生じていること、恐怖感が実際の危険性と釣り合わない、6ヶ月以上続いている、ことです。動物型、自然環境型、血液・注射・負傷型、状況型、そのほかの型の5つに分類する考え方もあります。
恐怖症性不安障害を限局性恐怖症と読み替えて治療について解説します。
一般的に精神疾患の治療は、精神療法・薬物療法・環境調整を組み合わせます。限局性恐怖症に対しては精神療法の一種、認知行動療法のうち曝露法(エクスポージャー)が推奨されます。曝露法は、恐怖を感じる対象に敢えて曝すというアプローチを取ります。不安を感じる対象をレベル分けして(例えば、最大級の不安が「ヘビに触る」だとすれば、その次が「ヘビと目を合わせる」、次が「ヘビの半径1m以内に近づく」など)、軽い方から実際にやっていきます。
環境調整については、例えばヘビに対して恐怖を感じるようであればヘビに接することのない環境を選択するというアプローチになります(ただしこれは回避に他ならないので根本解決とは言えないという指摘もあります)。
不安障害(不安症)に対してはSSRIと呼ばれる抗うつ薬を使用した薬物療法が一般的ですが、限局性恐怖症では推奨されていません。恐怖を感じる対象に接する場面にて、抗不安薬と呼ばれるお薬やβ遮断薬を服用し恐怖心を抑えるという限定的な使用方法が一般的です。
【参考】精神科医監修【抗不安薬(安定剤)とは】作用・副作用・依存性
【解説】 maitake(臨床心理士) 心理系大学院修了後、精神科・心療内科クリニックにて勤務。
【監修】 本山真(精神科医師/精神保健指定医/産業医/医療法人ラック理事長) 2002年東京大学医学部医学科卒業。2008年埼玉県さいたま市に宮原メンタルクリニック開院。2016年医療法人ラック設立、2018年には2院目となる綾瀬メンタルクリニックを開院。 |