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【精神科医監修】誰かの不調に気づいたあなたへ—ゲートキーパーとしてできること

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2025年12月19日

「なんとなく気になる」に気づけたあなたは、すでに第一歩を踏み出しています

日々の生活、オフィスワークやSNS上で、友人や同僚の様子がいつもと違う(疲れている、弱音を吐いている、など)といったサインに気づくことはありませんか?そのような時、「なんとなく気になるけれど、どう対応していいかわからない…」「何か力になれないだろうか」と思いながらも、声をかけるタイミングや行動に迷うこともありますよね。また、何か力になろうと行動したけど拒否されてしまったり、サポートに疲れてしまったりした経験がある方もいるかもしれません。

このような状況の時に、悩んでいる人をどのようにサポートをすればいいのか、今回は「ゲートキーパー」について知ることで一緒に考えていきたいと思います。

ゲートキーパーとは、「自殺や深刻な心の危機の兆候に気づき、声をかけ、話を聞き、必要な支援につなげる人」のことをいいます。令和4年の厚生労働省の統計では、自殺死亡率は主要先進国7か国(日本、アメリカ、フランス、ドイツ、カナダ、イギリス、イタリア)の中で最も高く、職場でのメンタルヘルス対策としてゲートキーパー養成研修を導入する事例も増えています。

 

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周囲の人の不調に気づいたらどうすればいい?


周囲の人の不調に気付いたとき、ゲートキーパーとしては何ができるのでしょうか。ゲートキーパーの役割としては大きく4つに整理されています。

変化に気づく

いつもと違う表情や言葉、遅刻・欠勤、SNSでの弱音、人とのかかわり方の変化など、小さなサインに注意を払うこと。

じっくりと耳を傾ける

否定せず、評価せず、ただ耳を傾ける。アドバイスよりも「聴く姿勢」が大切。頷きや相槌で安心感を与えたり、話を遮らず、沈黙も尊重する。

支援先につなげる

専門家や相談窓口に橋渡しをする。

主な相談先は下記の通りです。

  • 会社の産業医・人事相談窓口
  • 公的窓口(#7111「こころの健康相談統一ダイヤル」、いのちの電話など)
  • 地域の保健センター

 暖かく見守る

  • 暖かく寄り添いながら、じっくりと見守る。

上記のようなゲートキーパーの役割を見てみると、ゲートキーパーは問題の解決に注力するのではなく、悩んでいる人の「孤独・孤立」を防ぎ、専門家につなげる行動をすることが大切だということがわかります。ただし、この4つのうちどれかひとつができるだけでも悩んでいる人の大きな支えになりますので無理のない範囲でできることをやっていきましょう。

また、話を聞くとき、どのように耳を傾けたらいいかわからないというときには以下の項目を意識してみてください。

ゲートキーパーの心得

  • 自ら相手とかかわるための心の準備をしましょう
  • 温かみのある対応をしましょう
  • 真剣に聴いているという姿勢を相手に伝えましょう
  • 相手のこれまでの苦労をねぎらいましょう
  • 心配していることを伝えましょう
  • わかりやすく、かつゆっくりと話をしましょう
  • 一緒に考えることが支援です

話を聞くときは説得が目的ではありません。その人が「苦しい」と思う環境や背景を考えて、ただひたすら話を聞いて一緒に考える。この姿勢や気持ちが一番大切です(関連項目:臨床心理士解説|心理カウンセリングにおける主要な3つのアプローチ)。

 

支えるのがつらくなってしまったときは?


とはいえ、友人や同僚の相談に乗っていると支えることがつらくなり、自分が疲れてしまう時もあると思います。実際に近しい立場で人の苦しみに寄り添う人は、抑うつ症状、不眠、社会的孤立感、罪悪感などを経験する場合があることもわかっています。

そのようなときは、ゲートキーパーとして支える側のあなたが支援を受けることも一つの解決方法です。支える人がつらくなってしまっては支えられる人からしても罪悪感を覚えるかもしれませんし、お互いにいい気持ちにはなりません。「支えることに疲れてしまった」「支え方がわからない」などのお悩みを抱えた場合も相談窓口や専門家に相談してみてください。

時には「誰にも言わないで」といわれるときもあると思いますが、秘密を守りながらより良い支え方を相談することもできます。あなたも一人で抱え込まないことが大切です。また、支援のための知識をつけることも、支援する側の人間としては安心材料になることもあります。

厚生労働省の「ゲートキーパーになろう!」というサイトが、ゲートキーパーについてわかりやすくまとめられていますので、覗いてみることをお勧めします。

 

支えるあなた自身も、誰かに支えられていい


ゲートキーパーとして人を支えているとき、時には自殺の危険性がある人が「助けてくれなくていい」「誰も信じられない」「…(無言)」「死なせてくれ」と話し、援助を拒否することがあるかもしれません。「死ぬことの何が悪いの?」と言われることもあるかもしれません。

これは個人的な考えを含みますが…私であれば、まず「死にたい」と感じていること、「死にたい」と感じるに至った背景について理解を意識します。そのうえで医療機関(精神科や心療内科)への受診を提案します。

なぜなら「死にたい」という考えの背景に何らかの精神疾患が存在する可能性があるからです。どうにもならないと感じる過酷な状況を脱する方法を検討することすら億劫になっているのかもしれません(関連項目:やる気が出ない原因は病気かも?精神的・身体的な理由と対処法を専門家が解説)。精神疾患に伴いやすい認知機能障害の影響により多角的な検討が困難になっている結果として「死ぬしかない」という結論に至っているのかもしれません。ご本人が病であることに気づいておらず、援助資源にアクセスするという選択肢さえ思い浮かばず自死という決断に至ってしまうのは、アンフェアな気がするのです。

 

いずれにせよ、あなたが誰かの自殺を止めることは非難されません。

もし周りの人の変化に気づいて、支えたい気持ちとどうしようもない気持ちで辛くなってしまったときはあなたも誰かを頼ってください。人はもちつもたれつ生きていくもので、そのような社会になれば、きっと孤独や死を選ぶ人が少なくなるのではないかと思います。

 

参考文献


 

【解説】

田っちゃん(公認心理師・臨床心理士

田っちゃんコラム一覧

 

【監修】

本山真(代表取締役社長)

精神科医師/精神保健指定医/日本医師会認定産業医/医療法人ラック理事長

2002年東京大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部付属病院で研修。川越同仁会病院、不動ヶ丘病院の勤務を経て、2008年埼玉県さいたま市に宮原メンタルクリニック開院。2016年には医療法人ラックを設立し綾瀬メンタルクリニックを開院。2019年株式会社サポートメンタルヘルス設立。

 

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