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カスタマーハラスメント義務化|2026年施行に向けた企業の必須対策ガイド

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2026年1月9日

最終更新日 2026年1月9日

2026年に義務化されるカスタマーハラスメント対策とは|企業が今すぐ準備すべきポイントを徹底解説

2025年6月11日に、ハラスメント対策・女性活躍推進法を改正する法律が公布されました。

これにより、事業主(企業など)はカスタマーハラスメント(以下カスハラ)や就活に関わるハラスメントへの対策を講じる義務を負います。一般的に、法律は公布から1年6か月以内に施行されることになっていますので、この義務化は2026年中にスタートする見込みです。

2021年以降、職場内でのパワハラやセクハラ、マタハラはすでに対策義務の対象となっていました。各種SNSの投稿を見ても、「何らかのハラスメントに該当するのではないか!?」と論じられている体験談が注目を集めている場面は多々あります。その中には、既に対策が義務化されている3つのハラスメントだけでなく、今回取り上げるカスハラや、就活に関わるハラスメントも散見されます。

今回は、新たに対策が義務化されたもののうち、カスハラについて、現在分かっている義務要件含めて解説していきます。

カスハラは、時に誰もが意図せず加害者になってしまう可能性があるハラスメントです。多様性やコミュニケーションという観点でも大事な要素が含まれていますので、義務化された対策と併せてしっかりと押さえていきましょう。

 

 


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カスタマーハラスメント(カスハラ)とは


カスハラという言葉、最近特によく聞くようになった方も多いのではないでしょうか。「お客様は神様」・・・そんな言葉が本来の意図とは異なる様相で使われるようになって久しいですが、企業などの所謂「お店」側からの意見発信は、殊(こと)日本においては近年まであまり公に言われなかった文化だと思います。最近は、お店側の発信も増えてきて、顧客と対等な関係を築こうとする姿勢の企業も増えてきました。

さて、そんな中で厚生労働省発行の「ハラスメント対策企業マニュアル」では、カスハラを下記のように低意義しています。

 顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの。

ハラスメント対策企業マニュアル作成事業検討委員会.“カスタマーハラスメント対策企業マニュアル”. 厚生労働省. 2022-2-25より引用

 

ちなみに、カスタマーと聞くと、いわゆるお店の「お客さん」を想像される方が多いかもしれませんが、会社同士のやり取りにおける「取引先」といった関係性での言動もカスハラの対象となります。

では、具体的にどのような言動がカスハラに該当するのでしょうか?企業や業界によって基準は異なりますが、先ほどの定義に則ると、①クレームや要求自体が妥当かどうか、②要求の方法が「社会通念上」行き過ぎていないか、という2点がポイントといえそうです。

同マニュアルでは、それぞれの例を次の通りに挙げています。

①「顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合」の例

  • 企業の提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない場合
  • 要求の内容が、企業の提供する商品・サービスの内容とは関係がない場合

②「要求を実現するための手段・様態が社会通念上不相当な言動」の例

<要求内容の妥当性にかかわらず不相当とされる可能性が高いもの>

  • 身体的な攻撃(暴行、傷害)
  • 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)
  • 威圧的な言動
  • 土下座の要求
  • 継続的な(繰り返される)、執拗な(しつこい)言動
  • 拘束的な行動(不退去、居座り、監禁)
  • 差別的な言動
  • 性的な言動
  • 従業員個人への攻撃、要求

<要求内容の妥当性に照らして不相当とされる場合があるもの>

  • 商品交換の要求
  • 金銭補償の要求
  • 謝罪の要求(土下座を除く)

ハラスメント対策企業マニュアル作成事業検討委員会.“カスタマーハラスメント対策企業マニュアル”. 厚生労働省. 2022-2-25より引用

 

 

概観すると何となく「こういうことがダメ」がみえてきますね。カスハラ以前に法律違反といった言動から、「思わずやってしまうかも……」と感じる人がいそうな言動まで含まれているように見受けられます。もちろん、上記の具体例以外でも、職種や状況によって適用される言動は変わってくることは、しっかりと理解しておきましょう。

 

カスハラが企業にもたらすリスク


カスハラについては何となくわかったけど、実際に起こってしまったときにどのような悪影響があるのだろう?特に対策せずに放置していたらどうなる?

そんな風に感じる企業の経営者・管理職の方もいるかもしれません。カスハラの発生は、当事者以外にも影響が波及します。施行前のこのタイミングで、ぜひしっかりと対策を整備していきましょう。

カスハラ発生時に生じる影響は、ざっくりと①カスハラを受けた当事者、②企業全体、③他の顧客に及ぶと考えられます。以下、少し詳しく説明していきますね。

①当事者が受ける心身のダメージ

こちらは最も想像しやすいかと思われます。直接ハラスメントを受けているため、心身へのダメージによる事後の業務への影響、さらには就労継続の意欲等にも影響が及ぶ可能性が高いです。

実際、カスハラに該当するような行為を受けて仕事に行けなくなり、精神科や心療内科を受診される方もいらっしゃいます。暴力事案では、怪我の程度によっては就労の継続自体が困難になってしまう場合だってあります。

休んで元気になった後に復帰してくれれば良いですが、結果として離職に繋がってしまう……なんてこともあり得ます。

②企業全体のコストと負担感

カスハラは当事者だけではなく、企業全体にも影響は波及します

カスハラ対応のために、長い時間をとられた結果、職場全体の通常業務の進行が滞り、当事者以外の従業員にも負担がかかることがあります。カスハラが発生しているときだけではなく、その後の対応も含めると、専門職(弁護士等)へ相談する際の金銭的コスト、時間的コストという点でも影響が生じるでしょう。

さらに、カスハラが原因での離職が発生すると、採用や教育といった新たな負担が生じるなど、カスハラは企業全体にも影響する事案といえそうです。

③他の顧客の離脱リスク

特に店舗で生じるカスハラが該当しますが、他の顧客(お客さん)への影響も小さくありません。

自分がプライベートで入ったお店。入店した瞬間に別のお客さんの怒号が聞こえたらどうしますか?そのまま入店するでしょうか?それとも「やっぱり別のところ…」という気持ちになってしまうでしょうか?

レジに並んでいて、一つ前のお客さんが従業員にあれこれ注文をつけはじめたため、なかなか自分の番が回ってこない……。店員さんも困っているようで、どうにもならないようなことを言われ続けていそう……。こんなとき、どう感じますか?

上記のような場面に遭遇したことがある方、多いと思います。カスハラが起こっていなければ来てくれたはずの顧客が離れてしまうことは、組織にとっては損失です。それだけではなく、本来そのサービス等を受けたかった他の顧客にとっても機会の損失となり得ます。

 

概観すると、カスハラ一発で各所に影響が及んでしまうことがわかります。企業としては、日ごろからカスハラ対策をしておくことが、様々な視点でメリットが大きいと感じられるのではないでしょうか。

 

カスハラを未然に防ぐための実践的対策


さて、影響が絶大なカスハラですが、企業に求められる対策とはどのようなものなのでしょうか?

企業(事業主)が講じるべきハラスメント対策の内容は、以下の通りになっています。今後、法律施行までの間に随時詳しい指針が示されるそうなので、新しい情報をアップデートしていきましょう。

  1. 事業主の方針等の明確化、及びその周知・啓発
  2. 相談体制の整備・周知
  3. 発生後の迅速かつ適切な対応・抑止のための措置

また、自社の従業員がカスハラの行為者となってしまった場合には、相手の事業主が行う事実確認等に協力するようにと記載があります。このように、自社の従業員が顧客として他社に対してカスハラをしないような教育体制、カスハラをしてしまった場合の処分なども規定する必要があります。

 

これまで義務化されてきたハラスメントへの対策とカスハラ対策との大きな違いは、「行為者(=カスハラをした人)と被害者が別の組織に所属している」という点です。

概念としてまとめると、職場内で起こったハラスメント対策と同じような文言(周知啓発、相談体制整備、迅速な事後対応、再発防止策)にはなりますが、その内容や実際の手続きは同じものを流用できないポイントも多くあるでしょう。場合によっては、危機対応マニュアルの整備や、咄嗟の通報の訓練といった身を守る手段の周知・啓発など、より具体的な対策が必要になりそうです。また、業界によって起こりうるカスハラの内容にも違いがあるため、より柔軟に対応していくことが肝要になってくるでしょう。

 

厚生労働省のあかるい職場応援団では、他企業のカスハラ対策が紹介されていたり、業界別の対策マニュアル策定の取組が示されてたりします。実際に、具体的にどこまでが義務要件とされるかは、順次リリースされていくようです。すでに他企業等で策定されたマニュアル等を確認しつつ、最新の情報をチェックしていきましょう。

 

“意図せず加害者になる”コミュニケーション構造


ここまでの話を聞いて、「されることはあっても、自分がカスハラなんてしない!したことがない!」と思った方もいるかもしれません。この記事に興味を持っていただいている時点で、悪意をもってカスハラをしたい人はいないと信じています。

しかし、カスハラはちょっとしたコミュニケーションの掛け違いから「そんなつもりはないのに」起こってしまうことがあります。これは一番不幸なパターンですね。

冒頭で「誰もが加害者になり得る」と書いたのはこの「お互い悪意はないが、結果的にカスハラに該当するコミュニケーションになってしまった」場面のことを指しています。

  • こちらの言い分を相手が分かってくれなかった、伝わらなかった
  • 店員の説明が不足していて不安だった
  • お店側の杓子定規な対応で傷ついた
  • 不義理をはたらかれたように感じた ……等々

お店やサービスを利用する上で、誰しも「正当な不満や不安」を覚えた経験があるのではないでしょうか。

こんなとき、訴える言葉が強くなっていませんか?自分の状況を伝えようと必死になるあまり、声が大きくなったり、動きが荒っぽくなったりしていませんか?感情が昂って、要求を繰り返し伝えていませんか?

相手に非があったとしても、言動が行き過ぎればハラスメントになります。自分は被害者だと主張しても、出てしまった言動次第では、加害者になってしまうのです。

最初から相手を加害するつもりの暴言や暴力は論外ですが、上記のようなコミュニケーションのエラーから生じる、誰も望まないカスハラは避けたいですよね。

……とはいえ、要求を伝えたいときや不満や不安を伝えるときに、どうしても感情が先立ってしまうことはあると思います。人間ですから、すべてを我慢してなかったことにするのは難しいでしょう。

そんな場面では、下記のポイントを思い出してみてください。

  • ひと呼吸、おこう
  • 具体的に伝えよう
  • 相手の話を最後まで聞こう
  • 相手の立場を理解しよう
  • 相手に敬意を持って接しよう

カスハラとは?法改正により義務化されるカスハラ対策の内容やカスハラ加害者とならないためのポイントをご紹介. 政府広報オンライン.2025-10-07.より引用

 

 

どこでコミュニケーションのほころびが生じているのか?何が解消されるといいのか?といったポイントを自分に問いかけられると、少し冷静になれるかもしれません。

怒りの取り扱いや上手な主張の仕方については、こちらの記事もご参照ください。

精神科医監修|アンガーマネジメントー怒りが生じるメカニズムー

精神科医監修|感情の波に飲み込まれるな!激しい怒りを乗りこなせ!

アサーション|コミュニケーションメソッドの心理学を臨床心理士が解説

 

サービス提供者側ができる「加害者にさせない」対応


転じて、「カスハラが起こりにくい状況を作る」対応を実践することは、サービス提供者側が行えるカスハラ対策の一つとなり得ます。サービス提供者の対応として、自分が被害者にならないことを第一に考える、という前提の上で、「相手を加害者にさせない」「そのためにどうすると良いか」と考えることは大切かもしれません。

「従業員側が過度に我慢をする」「顧客の言うことを何でも聞く」「媚びへつらう」ような対応は、カスハラ的な言動を加速させる可能性が高く、適切な対応とはいえません。管理職の方も、現場スタッフに対して「我慢しろ」「言うことを聞いておけ」という指示を出すことは有効な対応ではないばかりか、自身がパワハラの行為者になってしまいかねないと心得ておきましょう。

顧客側の時と同じように、コミュニケーションエラーの要因を探り、適切な落としどころに導く対応ができると、不幸なカスハラを減らせる一助となるはずです。

クレーム対応にも通ずることですが、「一度ヒートアップした人をおさめる」のは、技術があっても困難な場合が多いです。自分が怒っているときにブレーキがかかりにくい経験がある人は多いと思いますので、そこを避けることが肝要です。

ここまでの話を聞くとなんだか難しく聞こえるかもしれませんが、神対応は必要ない場面がほとんどです。「ヒートアップさせない=怒らせにくい対応」スキルを身に着けると、より快適に仕事が回せる可能性が高まるでしょう。

忘れてはならないのは、企業側の対応だけでは解消できないカスハラが必ず存在することです。カスハラが発生した際に「対応が悪かったから」と担当者を責めるのではなく、適切に対応する体制を整えておきましょう。

 

2026年のカスタマーハラスメント対策義務化に向けて


 どんどん出てくる○○ハラ、あれもこれもハラスメント!と言われたら正直コミュニケーションをとること自体が億劫……と感じてしまうかもしれません。しかし、コミュニケーションが少ない職場の方が、よりハラスメントを受けたと感じる人が多いという結果も出ており、コミュニケーションをとらなければ良いってものでもないようです。

お互いのことが良く分からないから、気づかず相手の嫌なことをしてしまう、お互いのことが良く分からないから、相手に悪意がないと分からない。そんな場面が想像されます。コミュニケーションエラーでハラスメントは起きるし、コミュニケーションの委縮はハラスメントに対しても逆効果という結果が出ている……正直板挟み、といったところかもしれません。とはいえ、コミュニケーションゼロでまわせる仕事も、現状多くはないと思います。

もちろん悪意で人に接することがあってはなりません。ハラスメントはいじめや嫌がらせと同じです。理由があってもなくても、いじめは正当化されません。一方で、互いに悪気や悪意がない、文化や世代由来の価値観の違いから生じてしまった不幸なハラスメントは減らしていける可能性があります。多様性が推し進められる社会では「自分と異なる価値観を持った人」の存在はより身近に、当たり前になっていくでしょう。

友人関係であれば自分と価値観が合う人とだけ付き合う、という選択も可能です。しかし、カスハラの舞台となりやすい職場や接客の場では、価値観の異なる相手と関わる機会も少なくありません。そんな中、自分の正しさや価値観だけで突き進むとある時は被害者に、またある時は加害者になってしまうかもしれません。

「これなら全人類にハラスメントだと思われない!」という言動は存在しません。それくらい、価値観や文化の違いって大きいんです。

相手の事情を想像する、決めつけないために相手を知ろうとする、その手段としてのコミュニケーションが取れる風土を醸成することが、多様化する現代の個人・組織が求められるものかもしれません。

カスハラは社会に生きるすべての人が関係するハラスメントです。「私は関係ない」と言い切れる人はほぼ存在しないでしょう。カスハラについて知り・考える機会を、これからの時代に乗っていけるより良いコミュニケーションをとるためのきっかけとして活用していきましょう。

 

参考文献・引用文献


 

【執筆】

籔(公認心理師・臨床心理士)

籔コラム一覧

 

【監修】

本山 真(精神保健指定医・日本医師会認定産業医)

株式会社サポートメンタルヘルス代表取締役社長

医療法人ラック理事長 

 

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