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AIカウンセリングとは?メリット・限界・エビデンスを臨床心理士が解説

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2025年9月26日

臨床心理士が解説するAIカウンセリングの実力と課題──信頼できる?試す価値は?

昨今様々な分野でAIが取り入れられるようになり、すでに当たり前の存在になりつつありますが、最近は心理カウンセリングでも「AIカウンセリング」というものが生まれてきています。

カウンセリングと聞くと、人が話を聞くというイメージが強いと思いますが、今回のブログではAIが行うカウンセリングがどんなものなのか、そのメリットや限界について考えていこうと思います。(こちらもどうぞ:臨床心理士解説|心理カウンセリングにおける主要な3つのアプローチ)。

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AIカウンセリングとは?


近年、AI(人工知能)は医療や教育、接客などさまざまな分野に応用され、心理支援の領域でも「AIカウンセリング」と呼ばれる技術が登場しています。これは、人の代わりにAIが相談者の話を聞き、助言や共感を示すことで、メンタルヘルスのサポートを行うサービスです。

現在提供されているAIカウンセリングは、アプリやウェブベースのチャットボットを通じて利用できるものが多く、認知行動療法の知見に基づいた認知の再構成やストレス対処法の提示、気分記録機能などを備えています。

筆者も実際にいくつか試してみましたが、適切な質問や共感的な応答が返ってくるなど、一定の実用性を感じました。一方で、やや機械的だったり、過去の会話を記憶していなかったりといった課題もあり、現時点では“道具としての使い方”を考えることが求められます。

AIカウンセリングのメリット


AIカウンセリングには以下のようなメリットがあります。

  • 時間と場所に縛られず相談できる:24時間365日、自分のタイミングでアクセスできます。

  • 対人では話しにくい内容も相談しやすい:羞恥心や不安感が軽減されやすいと言われています。

  • 感情の整理に役立つ:文章化によって自身の思考や感情が可視化され、客観的に捉え直すきっかけになります。

  • 心理教育としても有用:多くのツールでは認知行動療法の原理を取り入れており、自助的な学習にもつながります。

AIカウンセリングの限界と注意点


とはいえ、現時点のAIカウンセリングには限界も存在します。

  • 非言語情報の読み取りができない:声のトーンや表情、沈黙などを手がかりとする人間の共感とは異なり、入力された文章の情報だけで応答がなされます。

  • 言語化能力が必要:AIに適切に理解してもらうには、ある程度具体的で明確な文章を構築する必要があります。

  • 読解負荷が高い場合も:AIの返答は長文化する傾向があり、心理的余裕がない時には読み進めることが困難な場合があります。

  • 緊急対応の限界:希死念慮を伴う深刻なケースには対応できない可能性が高く、現時点では医療機関の受診を優先すべきです。

科学的根拠(エビデンス)はあるのか?


AIカウンセリングは比較的新しい領域ですが、一定のエビデンスも蓄積され始めています。

2024年のレビュー論文(Beg et al., 2024)では、AIを活用した心理支援に関する複数のランダム化比較試験(RCT)や実証研究が分析され、うつ病、不安、ストレス対処能力の改善に一定の効果が認められたと報告されています。

特に、認知行動療法に基づいたAIツールでは、初期段階の抑うつや不安に対する有効性が複数の研究で確認されており、対面カウンセリングへの橋渡しとしての有用性が示唆されています(参考:認知行動療法とは?認知再構成法と行動活性化【精神科医監修✕公認心理師解説】)。

ただし、対象者の文化背景やデータセットの偏り、言語処理精度、倫理的配慮などの問題も指摘されており、今後さらなる検証と改善が求められます。

どんな人に向いているのか?


AIカウンセリングは、以下のような条件を満たす方に向いていると考えられます。

  • 具体的な悩みがあり、それを文章化できる

  • 気持ちを客観的に整理したいと考えている

  • 対人相談にハードルを感じている

  • 初めて心理支援を受けてみたいと考えている

一方で、漠然とした不安感や強い希死念慮、信頼関係のなかでの丁寧な対話が必要なケースでは、対人によるカウンセリングが適している可能性があります。

AIカウンセリングの倫理と課題


将来的にAIカウンセリングがより安全で普及するためには、次のような課題の解消が不可欠です。

  • データセットの多様化:社会的にアクセスが困難な層のデータを含めた学習が必要です。

  • 情報セキュリティ:相談内容のプライバシーを守る高度なセキュリティ対策が求められます。

  • 責任主体の明確化:AIの判断ミスに対して誰が責任を負うのか、法整備が必要です。

杉原(2024)による論文では、チャット型AIの倫理的課題についても指摘されており、AIを「人」と錯覚した相談者が情緒的依存に陥るケースもあると報告されています。AIはあくまで“補助的な道具”であるという理解が重要です。

まとめ:AIカウンセリングは“入口”として有効、ただし過信は禁物


AIカウンセリングは、気軽に始められる心理支援として今後も活用が期待されます。一方で、現在の技術水準には限界もあり、「AIだから安心」と思い込むのではなく、自分の状態に合った方法を選ぶことが大切です。

もし、AIカウンセリングを使っても気持ちが晴れない、つらさが続くといった場合には、早めに医療機関や専門職のカウンセリングを検討しましょう。

参考文献


  • Beg MJ, Verma M, VCKM, Verma MK. (2024). Artificial Intelligence for Psychotherapy: A Review of the Current State and Future Directions. Indian Journal of Psychological Medicine, 47(4), 314-325.

  • Campbell C. (2025). Artificial Intelligence and the Future of Psychotherapy: A Medical Student Perspective. Psychodynamic Psychiatry, 53(1), 33-38.

  • 杉原保史(2024)AI(人工知能)によるカウンセリングの倫理的検討―チャットによるカウンセリングを中心に― 京都大学学生総合支援機構紀要35(17)

【監修】

本山真(精神保健指定医/日本医師会認定産業医)

東京大学医学部卒業後、精神科病院、精神科クリニックにおける勤務を経て、2008年埼玉県さいたま市に宮原メンタルクリニックを開院。メンタルヘルスサービスのアクセシビリティを改善するために2019年株式会社サポートメンタルヘルス設立。

執筆】

ぶち(臨床心理士・公認心理師)

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