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タグ : ふ~みん(公認心理師) , メンタルヘルス
2024年8月9日
2024年1月。新年を迎えおめでたい空気が漂うお正月の夕方、突然の大地震が石川県を襲いました。そのときの様子や現在も壊れている家屋の状況などをテレビで見るだけでも、信じられないような光景に恐ろしさや悲しさを覚える人も多いことと思います。発生から時間が経過した今でも、現地では避難生活が長引いています。
そんな能登半島地震が発生してから、何度かある言葉に出会いました。それは「共感疲労」という言葉です。共感疲労とは、被災地の人たちなどつらい状況におかれている人の苦しい気持ちに共感することで、気付かないうちに自分自身の心が疲れてしまうことをいいます。自分が被災したわけではないけれど、日々の様子をニュースやインターネットなどで見ることであたかも自分が経験しているように感じてしまい、いつの間にか心が疲れてしまう方々が増えているようです。
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そもそも共感すること、とはどのようなことをいうのでしょう。
以前、キャラクターのハローキティを例に共感についての記事を執筆したことがあります(【共感とは?】心理学の観点から共感を理解する|精神科医監修ブログ)。その中で、“共感は自分も同じような経験をしたということを思い出し、気持ちの上で再体験している状態であり、対人関係や社会生活を円滑にする役割の1つでもあります”とし、日常生活の中で見られる一般的な共感として、ドラマを見ていて主人公と同じ気持ちになったり、好きなアーティストの楽曲を聴いて歌詞と自分を重ねたりすることや、友人との会話で「それ、わかるー!」と賛同することもその一種であるとご紹介しました。
共感は、他者と関わり生活を送る上では大切な概念ですが、対象が災害や事件などのつらい出来事になると心身に不調をきたすこともあるのです。よくみられる症状として、体の面では頭痛、吐き気、動悸、不眠、疲れがとれないなど、心の面では無気力、やる気が出ない、趣味を楽しめない、わけもなく涙が出る、気分が落ち込む、イライラする、罪悪感があるなどが主です。これらの症状が出現したりいつもと違うと感じたりしたら、共感疲労のサインかもしれません。
共感疲労を起こしやすい人には共通の特徴があることが分かっています。
例えば、誰かの相談にのっているときにその人の言動や情報からより多くのことを感じ取ってしまい一緒に泣いてしまうような感受性の強い人、他者のために何かしたい、できることはないだろうか、という思いが強く大変な思いをしている人たちに気を遣う人、ボランティア精神が旺盛で困っている人を助けたいと感じる使命感の強い人などです。また、医療職、介護職など困りごとがある人々を支える「感情労働」と呼ばれる職種に就いている人たちも共感疲労を起こしやすいと言われています。
感情労働という概念は、1983年にアメリカの社会学者ホックシールドによって提唱されたものです。定義上は「相手に感謝や安心の気持ちを喚起させるような、公的に観察可能な表情と身体的表現を作るために行う感情の管理が必要な労働」とされていますが、分かりやすく言い換えると、自分の感情をコントロールし、相手の立場に寄り添って受けとめたり話を聴いたりすることで報酬などの対価を得る仕事、とでも表現できるでしょうか。感情労働には先に述べた職種の他に客室乗務員やコールセンターのオペレーターなどの接客業や秘書、教師、経営者なども該当し、心理士もその中に含まれています(感情労働についてはこちらもどうぞ:精神科医監修|バーンアウトとは?症状とメカニズム、予防法を解説)。
感情労働と呼ばれる仕事に就いている人でも日常的に自分自身の感情をコントロールし続けると消耗することは明らかだと言われているので、仕事としてではなく強く共感できる人たちにとっても無意識の感情コントロールは自身の感情を消耗させ、疲労につながることになります。
では、共感疲労の状態になってしまったときはどうしたら良いのでしょうか。自分自身でできる対処法をいくつかご紹介します。
まず、情報源との適度な距離をとることが大事です。意図せずに情報を受け取ってしまい疲労が蓄積している可能性がありますので、例えばテレビや動画を見る時間を決めたり見ないようにしたりします。その空いた時間で趣味に没頭するなど、自分にとって快適だと感じる時間を過ごし気分転換をすることも有効です。人間はどうしてもネガティブな面に目がいきがちですが、気分が晴れればポジティブな面や感情にアンテナが向きやすくなります。
また、自分ひとりではどうしようもないと感じる場合は誰かに自分の気持ちを話してみることも良い方法です。自分では気付けなかった側面に気付かせてくれたり客観的な意見を聞けたりすることで、自然と気持ちが整理されるかもしれないです。もちろん、寝る、食べる、笑う、運動するなど基本的な生活の一部で対処できる場合はそれでも問題ありません。
ご紹介したのはほんの一例であり、共感疲労の予防・対策にはさまざまな方法が考えられますが、実行してみてもなかなかうまくいかないこともあります。その場合、共感疲労だけではなく、うつ病などほかの病気の可能性も考えましょう。病気であればお薬による治療が効果的かもしれませんし、カウンセリングを受けるなど専門家にアドバイスをもらうことで落ち着くかもしれません。しかし、受診に抵抗があったり病院にかかるほどではないと感じたりするのであれば、まずは電話やSNSの相談窓口を利用するのも良いでしょう。
【解説】 ふ~みん(公認心理師) だれかに共感するのは悪いことではなく、人間だからこそできる素晴らしいことです。ただしそれによって自分の心に負荷がかかることも忘れてはいけません。これまでになかった症状が出現、継続し、日常生活に支障が生じるような場合は早めに医療機関を受診するのがおすすめです。
【監修】 本山真 医師、精神保健指定医、日本医師会認定産業医 東京大学医学部卒業後、精神科病院・診療所での勤務を経て、さいたま市に宮原メンタルクリニックを開院。現在は株式会社サポートメンタルヘルス代表に加え、2院を運営する医療法人の理事長としてメンタルヘルスケアに取り組んでいる。 |