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困りごとの源泉の変遷|医学モデルと社会モデルの違い。BPSモデルそして生活モデルへ

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2023年11月3日

最終更新日 2024年8月2日

医学モデルと社会モデルの違い、BPSモデルと生活モデルとは?困りごとの源泉の変遷を解説

あなたの困りごと。なぜ生じているのか考えたことはありますか?

 

ー○○のせいで困っている

ー△△があったから困っている

 

人間は兎角因果関係で物事を捉えがちです。確かに『AによってBとなった』という原因と結果の関係性はわかりやすいんですよね。一方で、わかりやすさと現実の正しい理解は別物です。『足のケガ』を例に考えてみましょう。

 

ー足のケガのせいで困っている

ー足のケガがあったから困っている

 

 

因果関係モデルの直線的な説明は非常にわかりやすいですよね。でもよく考えてみてください。『足のケガ』から生まれる困り感は、本当に『足のケガ』のせいなのでしょうか?目の前の階段がスロープであれば、エスカレーターやエレベーターが設置されていれば困り感が生じる可能性は低くなりますよね。さて困りごとは一体どこから生じていると考えるのが適切なのでしょうか?

 

本ブログでは医学モデルからWHO(世界保健機関)より発表されているICF(国際生活機能分類)に至るまでの経過を題材に、困りごとの源泉の変遷について解説します。

 

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医学モデルと社会モデルの違い


医学モデルは『機能障害(Impairment)が即ち能力障害(Disability)につながる』と考える直線的なモデルです。

 

先ほどの足をケガした状態を例にすると…

ー足のケガという機能障害により、階段を昇れないという能力障害が生じる

と考えるわけです。非常に理解しやすいモデルであることがおわかりいただけるかと思います。医学モデルにおいて能力障害解消の手段は機能障害を解消するための介入(治療など)となります。医学モデルにおいては、困りごとの源泉は個人にあると考えるわけですね。

 

 

社会モデルにおいては『機能障害即ち能力障害』とは考えません。機能障害によって生じる制限(Disability)は社会によって生じていると考えます。

 

冒頭でも説明したとおり、足をケガした人であっても、階段に変わってスロープやエスカレーター、エレベーターがあれば活動制限は生じません。同じ足のケガをした人であっても最寄り駅にエレベーターがあるか階段しかないかによって困り感は変わりますよね。つまり足のケガに伴う困り感は『機能障害によって生じているのではなく環境整備が行き届いていない社会によって生じている』と考えるわけです。

 

社会モデルにおいては、困りごとの源泉は社会にあると考えるわけですね。ちなみに…日本は国際連合の障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)に批准しています。障害者権利条約の基本発想は社会モデルに基づくため、日本における困りごとの理解は社会モデルの立場を取ります。

【参考】

障害者の権利に関する条約|外務省

 

BPS(生物心理社会)モデルから生活モデルへ


医学モデルの直線性に対するアンチテーゼとして提唱された考え方に生物心理社会モデル(BPS:Bio-Psycho-Socialモデル)があります。生物心理社会モデルにおいては、困りごとは生物学的側面、心理学的側面、社会学的側面の相互作用によって生じていると考えます。BPSモデルはメンタルヘルス領域にてよく用いられるモデルであり、困りごとの理解をする際(専門的にはアセスメントと呼びます)、根幹となる発想です。

 

気分の落ち込みで困っている方を例に解説しましょう。落ち込みイコールストレス?と考えてしまいがちですが、実は栄養不足(鉄分不足など)でもうつ状態になる可能性はありますし、甲状腺機能低下症や月経前症候群などホルモンの影響による可能性もあります。これが生物学的側面の評価です。生活環境を聞いてみたところ、最近仕事が忙しくてなかなか休みが取れていない。身近に頼れる親族・友人もいない。これが社会学的側面の評価例です。

 

落ち込みイコールストレスという因果関係モデルで理解していては気づけない観点ですよね。BPSモデルにおいては原因結果モデルではなく相互作用の考え方を取りますから、困りごとの成り立ちにそれぞれの因子が影響を与えあっていると理解します。なお、生物学的側面に対しては薬物療法、心理学的側面には精神療法や心理療法、社会学的側面には環境調整、とそれぞれの側面に対しての介入方法が確立されています。

【参考】

うつ病|厚生労働省

 

 

BPSモデルを下敷きに発展したモデルが生活モデル: ICF(国際生活機能分類)です。BPSモデルの基本発想と同様、種々の要因が相互作用をし合っているという考え方をします。BPSモデルと大きく異なるポイントは、相互作用し合う因子の数(BPSモデルは3つ、ICFは6つ)、モデルを適応する対象(困り感のあるなしに限定せず健康な人も対象とする)だと言えます。

 

困りごとの源泉は個にあると考える医学モデルから始まり、困りごとの源泉(正しく言えば困りごと含め生活の源泉)は種々の要因の相互作用と考える生活モデルへと変遷しているわけですね。

※なお、いずれのモデルも優劣で考えるべきものではありません。多元的、多層的に人間を理解するための視点の一つだという点にご注意ください。

 

困りごとの源泉の変遷


今回は『困りごとがなぜ生じるか』というトピックに関連して、医学モデル、社会モデル、BPSモデル、生活モデルをご紹介しました。困っている主体は個人ですから、困りごとの源泉も当然個人にあると帰結してしまいがちです。ご紹介した通り、社会モデルやBPSモデル、生活モデルに基づけば困りごとの源泉は環境要因との相互作用だと考えるわけです。

 

弊社ブログにて取り上げている考え方の癖(認知のゆがみ)は、基本的には個人へのアプローチであり『とある環境』への適応を目指すアプローチとも言えます。考え方の癖ゆえ困りごとが生じている場合において、環境を変えてみたら該当する考え方の癖が機能的に働いたというケースは珍しくありません。また、環境に存在するちょっとしたハードルが、時に成長促進の役割を果たすこともあります。

 

ご自身の困り感を『環境との相互作用』という観点から分析することは、自己理解について新たな視点を獲得するきっかけになるかもしれません。

 

参考文献


 

【監修】

本山真(精神科医師/精神保健指定医/日本医師会認定産業医)

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