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タグ : メンタルヘルス対策 , 市川(公認心理師・臨床心理士) , 産業精神保健
2024年5月24日
最終更新日 2024年9月19日
職場の人間関係や労働環境によってうつ病を患うケースは少なくありません。仕事を原因としてうつ病を発症し休職に至った場合、休職期間の収入を確保するために労災を申請しようと考える方もいらっしゃるでしょう。本コラムでは、うつ病で労災を申請するときに知っておきたい内容を取り上げましたのでご紹介します。
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【監修】 本山真 株式会社サポートメンタルヘルス代表取締役 日本医師会認定産業医/精神保健指定医 医療法人ラック理事長/宮原メンタルクリニック院長 |
仕事に起因するうつ病や適応障害などの精神疾患は労災の対象となります。労災を利用するためには、仕事によって病気になったことが労働災害にあたると認定される必要があります。精神疾患はケガや身体疾患と異なり、原因が業務によるものなのかという業務起因性の判断が難しいと言われています。精神疾患で労災認定される際は、3つの条件を満たす必要があります。1つずつ解説していきましょう。
まず初めに、個体側の要因・仕事以外のストレス・仕事のストレスと、精神疾患は様々な要因によって発症します(参考:困りごとの源泉の変遷|医学モデルと社会モデルの違い。BPSモデルそして生活モデルへ)。したがって、労災認定においては全ての精神疾患が労災の認定対象というわけではありません。うつ病は業務に関連して発病する可能性が高い精神疾患の一つであるため“労災として認められる疾患”にあたります。他にも、急性ストレス反応、適応障害などが認定基準の対象となる精神疾患に当てはまります。労災認定対象外の精神疾患としては、認知症やアルコールや薬物による障害、統合失調症が代表的です。労災認定の対象となる疾患に関しては、以下をご参照ください。
【参考】
精神疾患を発症するおおよそ6か月前から、仕事による精神的な苦痛の事実関係を確認したうえで仕事によるものと判断されることを指します。この判断には『業務による心理的負荷評価表』が用いられます。詳しくは以下をご参照ください。
【参考】
厚生労働省は『精神障害の労災認定/精神障害の発病についての考え方』として以下のように記載しています。
精神障害は、外部からのストレス(仕事によるストレスや私生活でのストレス)とそのストレスへの個人の対応力の強さとの関係で発病に至ると考えられています。
発病した精神障害が労災認定されるのは、その発病が仕事による強いストレスによるものと判断できる場合に限ります。
【引用】厚生労働省|精神障害の労災認定
心理的負担を受けたかどうかは、弱・中・強の3段階に分けて評価を行います。上記の記載によると、労災認定されるのは強いストレスによるものでなくてはなりません。または特別な出来事によって判断されます。『特別な出来事』と評価される出来事とは、【心理的負荷が過度なもの】と【極度の長時間労働】に分けられます。以下【心理的負荷が極度のもの】に該当する項目です。
・生死にかかわる、極度の苦痛を伴う、又は永久労働不能となる後遺障害を残す業務上の病気やけがをした
・業務に関連して、他人を死亡または生死にかかわる重大なケガを負わせた(故意は除く)
・強姦や、本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクハラを受けた。
・その他、上記に準ずる程度の心理的負荷が極度と認められるもの。
そして【極度の長時間労働】とは、疾患発症直前の1か月で約160時間を超えるような時間外労働。または1か月に満たない期間にこれと同程度の(例えば3週間に120時間以上の)時間外労働のことを指します。上記のような出来事がない場合は、発症前6か月以前の具体的な出来事を総合的に評価してストレスを受けたかどうかを確認します。
仕事による強いストレスがあったと認められる場合でも、仕事以外にも大きなストレスがあったと言えるケースでは、労災が認定されない場合があります(例えば、離婚 借金 家族との死別等)。あくまでも精神疾患に罹患した要因は仕事にあるということを証明しなくてはなりませんので、精神疾患の発症が仕事によるものなのか医学面からも慎重な判断が求められます。
2023年7月に『精神障害の労災認定の基準に関する専門検討委員会』の報告書が取りまとめられ、精神障害の労災基準が改正されました。詳しくは以下をご参照ください。
労災は、労災保険制度の略称であり、労働者が仕事の上でケガや病気になった場合に、雇用主に代わって医療費や休業補償を行うための保険のことを指します。うつ病のため労災の認定をされた場合、仕事を休んだ期間について補償を受けることが出来ます。
休業補償給付は業務上の災害により休業せざるを得なくなった場合に4日目から支給され、支給額は平均給与日額の60%。そして、平均給与日額の20%の『休業特別支給金』も支給されると、あわせて平均給与日額の80%が支給されます。また、うつ病の治療を受けるにあたり、病院への受診や処方代などの治療費がかかってしまいますが、労災と認定された場合は病気の治療費が全額支払われ、労災指定病院を受診すれば無料で治療を受けることができます。労災指定病院については以下をご参照ください。
【参考】
因みに、労災が原因でうつ病を患って仕事を休んだ場合は、法律上、解雇が制限されます。そのため職場から解雇されるといった心配はなく治療に専念できるでしょう。
うつ病による労災申請を迷うケースとして、労災申請により何かデメリットが生じるのではないか、という不安や心配をあげる方もいらっしゃいます。労災は労働者を守るための保険ですから、うつ病によって労災認定されることによる労働者へのデメリットはありません(強いて言えば、うつ病による労災認定までの期間や手続きにかかる負担がデメリットでしょうか)。
うつ病による労災認定によってデメリットが生じるのは職場です。従業員がうつ病による労災認定をされた場合、職場に生じ得るデメリットを4つご紹介しましょう。
うつ病を発症させる環境であることは職場の安全配慮義務違反となります。安全配慮義務違反に該当する場合は、労働者に対して損害賠償責任を負うことになります。
業務災害にあった労働者や遺族から、保険給付の請求のために必要な証明を求められた時は、速やかに証明しなければならないとされています。また、裁判を起こされ、メディアに報道されることによって多くの人に『労災を引き起こす会社』であるというイメージを持たれてしまうでしょう。
不幸にもうつ病による労働災害によって従業員が自死してしまった場合、または従業員が重大な障害を負ってしまった場合については、罰則が科せられる可能性があります。
労災保険の支払い実績に応じて労災保険料を増減させる『メリット制』を採用している場合があります。メリット制については以下をご参照ください。
労災事故が発生した会社は、法令に違反したとして行政処分などの対象になることがあります。
労災申請は労働基準監督署の署長に対して行います。うつ病による労災申請の流れとして、以下を参考にしてみてください。
まず心身の不調がある場合は一人で抱え込まずに医療機関を受診し、治療を受けて状態を回復させることが大切です。その結果、仕事によって精神疾患を発症したと思われる場合は労災申請を検討し、会社に報告します。また、医療機関にかかった際の治療期間中に作成されたカルテなどの情報は労災認定のための判断材料になる場合もあります。
労働者、または雇用主から所轄外労働基準監督署に請求書を提出します(申請書は労働基準監督署や厚生労働省のホームページから取得可能です)。職場との関係が良好であり、職場が協力的であるならば、書面の記載や提出は職場が代わりにしてくれる場合もあるでしょう。職場によっては『労災と認定されたくない』と考え、労災申請に協力的でないところもあるかもしれません。後者のケースは、労働者自身で申請の手続きをする必要がありますので、ご自身で請求書に記入し提出をすることも視野に入れた方がよいでしょう。
申請書提出後、労働基準監督署では労災認定に必要となる調査が行われます。申請者、主治医、会社関係者からの事情聴取、資料提出などを元に、労災にあたるかどうか判断されます。なお、申請者はうつ病の原因となった出来事や労働環境を立証できる証拠があれば提供すると良いでしょう(例えば、タイムカードなど労働時間が分かる記録、パワハラ現場の録音音声等)。
労働基準監督署による調査の後、労災の支給または不支給に関する通知書が送られます。もし労働基準監督署の不支給決定に納得できない場合、再審査請求を行うことができます。
以上がうつ病による労災認定手続きの流れになります。
引用・参考資料
【解説】 市川(公認心理師) 精神疾患による労災認定のハードルは高いと言われています。また、労災を申請してから認定されるまでは、一般的に6か月以上かかると言われており、うつ病を治療しながら労災の手続きを行うことは大変なことでしょう。困ったときは一人で抱え込まず、社労士や弁護士、医療機関などを頼ってください。 労働に関するあらゆる相談や、労災について詳しい相談ができる窓口をご紹介しておきます。参考にしてみてください。 総合労働相談コーナーのご案内|厚生労働省 (mhlw.go.jp) 労災保険について分からないことがある・・・ (mhlw.go.jp)
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