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タグ : chico(公認心理師・臨床心理士) , メンタルヘルス , メンタル不調・精神疾患解説
2025年2月21日
―大したことではないのにカッとなってしまう。
―思い出したくないのに思い出してしまう記憶がある。
―寝ている途中で目が覚めてしまいやすい。
あなたのお悩み、もしかしたら「トラウマ反応」かもしれません。WHOの調査によれば、日本において生涯トラウマ体験をする確率は60%と言われているそうです。
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トラウマとは、ある体験が原因となって、心や体が本来の機能を十分果たせなくなっている状態のことを指します。
「トラウマ」を日本語に訳すと「心的外傷」となります。外傷とはつまり”ケガ”のことなので、トラウマは「心のケガ」という意味です。ケガは何か原因となる出来事があって初めて生じるものであり、体のケガであっても心のケガであってもメカニズムは同様です。その人の性格や物事の捉え方のせいでケガを負うことはありません。
関連した言葉に「PTSD」がありますが、これは心的外傷後ストレス障害の略称です。精神障害/精神疾患の一種で、明確な診断基準があります。その人のトラウマによる心身症状が、基準に該当すると医師が診断します。「PTSDの診断がない=トラウマがない」ということではありません。擦傷でも痛みがあるように、どのようなトラウマでも苦しみを伴い得ます(関連項目:【精神科医監修】嘔吐恐怖症の克服法と治療法ガイド|吐くかもしれない恐怖に向き合う)。
「トラウマ」の原因となり得る出来事である”戦争、事故、災害、事件など”は、ニュースや映画、ドラマ、小説といったメディアで取り扱われることの多いテーマでもあり、日常との連続性をイメージすることが難しいかもしれません。実際には、日常と地続きである多くの出来事が、心にケガを負わせることがあります。
例えば…身体的虐待や体罰、心理的虐待やDV、ネグレクト、いじめ、ハラスメント、両親の別居、家族の精神疾患、貧困など。戦争や事故、災害と比較すれば、直接生死に関わるイメージは持ちづらいかもしれませんが、自力で逃げることが困難、且つ、自身で闘うことも難しい、加えて、毎日継続される…。当事者にとっては苛烈な日常です。苛烈な日常は人間の心身に長期的な影響を与えます。
加えて、自身に生じている苛烈な日常のみならず、他人が体験したことをメディアを通じて見聞きすることもトラウマになり得ます。冒頭で紹介した「トラウマ体験率60%」というデータは、狭義のトラウマ(生死に関わる直接的な出来事が原因)を対象としています。苛烈な日常やメディアからの影響を含めれば、実際はもっと多くの人が心のケガを受傷しているかもしれないわけです。
トラウマの原因となった出来事の記憶が、鮮明に思い出されます。本人の意思とは関係なく、当時のことが映像として見えたり音として聞こえたり、当時の感覚、感情、身体的反応(動悸や汗)などが出てきます。これらの症状は「フラッシュバック」とも呼ばれます。また、その記憶が悪夢として現れることもあります。
トラウマの原因となった出来事の記憶を思い出さないようにしたり、そのことを考えないようにしたり、関連する物、人、場所、状況を避けたりします。そもそも当時のことをあまり覚えていないという場合もありますが、記憶を心の奥底にしまいこんでいるのかもしれません。これも無意識的な「回避」と捉えることができます。
認知と気分のネガティブな変化
トラウマ体験を境に、考え方や気持ちがネガティブになりやすいと言われています。
例えば…
「あんなことが起きたのは自分のせいだ」と思ってしまう。 何をやっても楽しく感じない。 誰とも心の底から繋がれるように思えない。 幸せや優しさなどの感情がわかない。 「自分には価値がない」と思ってしまう。 心の底から安心できる場所がないと感じる。 |
人間は危険な場面に遭遇すると緊張や興奮といった反応が喚起しますが、トラウマ受傷後は、そういった反応が生じやすくなります。危険な場面に対する感受性が高まることから全意識が外に向くため、突然の音や動きにビクッとしたり、イライラしやすかったり、一つの物事に集中できなかったり、寝ている途中も目が覚めやすくなったりします。動悸、頭痛、腹痛、吐き気、過呼吸、口渇などの身体症状も過覚醒の一つだと言えます。
これらの症状があることで、人間関係がうまくいかなくなることも多く、アルコールや薬物の過剰摂取、自傷や自殺行為につながるリスクもあります。むしろこういった二次的な症状の方が、問題として表面化しやすいかもしれません。
人間は一度危険に遭遇すると、そのときに得られた情報を今後のために取っておこうとします。そのときに見た物、聞いた音、感じた感覚など様々な「記憶のパーツ」を脳の扁桃体という場所に送ります。扁桃体は「警戒モード」のスイッチを押すことができるためです。「警戒モード」になると、心拍数、呼吸数、血圧などが高まり、すぐに逃げたり戦ったりできるように準備が整います。
次に同じような状況になったとき、扁桃体が適切に働けばよいのですが、ある出来事があまりにも強かったり繰り返されたりすると、扁桃体が過剰に働くことになります。そのため、扁桃体にある「記憶のパーツ」に少しでも関連する事が起きると、すぐ「警戒モード」になってしまいます。
頻回な警戒モードへの切り替えを解消するためには、「特に何もしなくても、今はもう危険なことが起こらない」と体が学習する必要があります。しかし、過覚醒反応によって「何もしない」こと自体が難しかったり、回避反応によって「もう危険なことが起こらない」と感じること自体が難しかったりします。その結果、トラウマはなかなか治らず、むしろ強くなってしまうこともあります。
当時の記憶が蘇ってきても、「これはもう過去のこと」「今はもう安全なところにいる」「この気持ちは今起きていることではない」と意識しましょう。ですが、いざフラッシュバックが起きると、難しいかもしれませんね。セリフを紙に書いておいて声にだしてみる方法もあります。
そして、なるべく意識を「今ここ」に持ってきましょう。そのために次のような方法が使えます。
人間は恐怖を感じた時、①闘う②逃げる③固まるのいずれかの反応をとることが多いとされています。①と②は「闘争逃走反応」という言葉で知っている方もいらっしゃるかもしれません。一方で③の「固まる」はどうでしょうか。「固まる」は、実は人間以外の動物たちも使っている方法なのだとか。逃げ場を失った動物は、仮死状態となって敵から身を守ることがあります。
闘う、逃げる、そして固まる。これらは全て、動物が本能的に備えている自己防衛方法と言えます。
トラウマを抱えている方のなかには、当時自分が上手く対応できなかったことに後悔を感じている方がいらっしゃるかもしれません。「どうしてあのとき自分は何もできなかったのだろう」と自分を責めてしまっていませんか?トラウマ受傷時、体が固まって頭が真っ白になって動けなかったのは、生体のメカニズムが自分を守ろうとしたからなのだとご理解いただきたいと思います。また、一度トラウマ体験を受けた方は、同じような状況でやはり固まってしまいやすく「再被害」を受けやすいとも言われています。当然ご本人のせいではありません。
残念ながら”トラウマ「心のケガ」”を無かったことにすることはできません。一方で適切に向き合うことで心のケガを乗り越えることは可能です。まずは”ご自身の感じる苦しさがトラウマ反応であることに気づく”こと、そして”トラウマを抱えている自分を受け容れる”ことから始めてみてください。
【執筆】 chico(公認心理師・臨床心理士) |