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タグ : chico(公認心理師・臨床心理士) , メンタルヘルス
2025年6月20日
目次
先日書店に入ると、親子関係に関する本が多く目につきました。特徴的なのは、大人の読者に向けて書かれていたことです。反抗期を迎えた子ども、ではなく、すでに自立している大人が、自らの親の影響に苦しみ続けていることがあるようです。
こんな生きづらさはありませんか?
もしかしたら、ご自身の育ってきた家庭環境にきっかけがあるかもしれません(関連項目:【臨床心理士が解説】トラウマと向き合うために|理解・対処・回復のステップ)。
・自分に自信がない。自己肯定感が低いと思う。
・ちょっとしたミスでひどく落ち込んでしまう。
・なぜだか人間関係がいつもうまくいかない。
・家族、恋人、友人に気を遣いすぎて疲れる。
・怒りなどの感情をうまくコントロールできない。
・飲酒、薬物、自傷など、そうしないと生きていないと感じる物事がある。
・自分の子育てがうまくいかない。
・ふとした瞬間に、親との記憶が鮮明に思い出される。
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さて昨今「毒親」という言葉が広がりを見せていますが、ご存知でしょうか。
もとはアメリカの医療コンサルタントが著書の中で使った言葉で、医学的な専門用語ではありません。一般的に「子どもにとってマイナスとなるような言動を継続的に行うことで、子どもの人生に悪影響を及ぼす親」という意味で使われます。
英語にすると「Toxic Parent」。「毒」というと「Poison」という英単語もありますが、タバコの煙など「毒素」を意味する「Toxic」を使います。毒親は、誰が見てもネガティブな言動を故意にするのではありません。毒親の日々の言動が、積もり積もって結果的に支障を招くのです。イメージとしては、意図をもって毒(Poison)を盛るというより、意図せず出された毒素(Toxic)を、近くにいる人が体内に吸収し続けているということになります。
代表的な特徴を挙げると以下のようになります。
子どもの先回りをして必要以上に世話を焼いたり、口出しして自分の思い通りにしようとしたりします。子どもの気持ちよりも親の欲求や世間体を優先するときがあるようです。
(例)
・教育熱心で完璧主義
・子どもが一人でできることを手伝う
・子どもの友人関係を細かく聞き出す
・子どもも自分と同じようにしたいはずだと考える
・子どもの選択や好みを支持しない
このような言動が続くと、子どもは自分の力で何かを成し遂げる経験ができず、自己肯定感が低くなっていくと考えられます。好き嫌いを主張できないことで意思が弱くなったり、常に完璧でいなければならないという信念が強くなったり、といった影響も推測されます。
自分が話すときは感情的なのに、子どもの話を聞いているときは共感的でない、ということです。
(例)
・子どもをひどく叱る
・不安なことを長時間話す
・子どもが悩みを話しても「大したことじゃない」と取り合わない
・子どもの頑張りを褒めない
本来子どもは、自分の不安定な気持ちを、安定した大人に察してもらうことで、感情のコントロールを身に着けていきます。しかしこのような言動が続くと、徐々に自分の感情に鈍感になっていくと考えられます。自分でも気づかないうちに感情が限界を迎えてしまい、コントロール不能になっているといったことが起こりやすくなるのです。
親が自身の問題に子どもを巻き込むことがあります。特に母娘間で生じやすいそうです。本来であれば、子どもが大人を頼るのですが、その逆の状態になります。
(例)
・子どもに相談する
・愚痴を話し続ける
・子どもに味方になることを求める
このような言動が続くと、子どもは親を助けることに役割や価値を見出すようになります。親の役に立たなければ、子どもとして人として「失格」だと思ってしまうかもしれません。
上記のような言動について、「あなたのことが心配で」「あなたのためを思って」「あなたが唯一の生きがい」「あなたがいないと生きていけない」といった言葉で説明し、愛情を示します。しかしそうすると子どもは、親を嫌がること、親と異なる考えや感情を持つこと、親を助けられないことに罪悪感を持ちます。結果、物理的にも精神的にも親から離れられなくなると考えられます。
研究では、良好な人間関係が築きづらいこと、社会生活上の満足度、職務遂行能力、キャリア形成等に影響があること、無意識に自分自身に対してネガティブになりやすいことなどが示唆されています。
自尊心が高い人は、「勉強や仕事がうまくいかなくても自分の価値が下がるわけではない」と考えることができます。しかし無条件に愛される経験が少ないと、自尊心は育まれません。自分の価値を保つために成功を過剰に求め、失敗すれば自分の存在価値がなくなると思ってしまうほど完璧主義になりやすいようです。
自分の意思が支持されてこなかった経験から、自分のことを自分で決めることが難しい傾向にあります。また承認欲求や愛情欲求が強い傾向にもあるそうです。友人や恋人に自分のことを決めてもらおうとしたり、満たされない心を何かに依存することで満たそうとしたりすると言われています。
本心を抑圧してきた経験から、自分の感情に鈍感で、他者に上手に伝える方法を身につけていません。すると感情のコントロールが難しくなります。嫌なことをされても我慢し、相手に不満をもらすこともせず、気づいたときには怒りが沸点に到達しているといったことが起こります。
「親と適切な距離をとる」これができたら良いかもしれませんが、簡単にはいかないものです。そもそも毒親育ちの方にとっては、「自分は毒親育ちかもしれない」と考えること自体が辛いかもしれません。しかし毒親について考えること、イコール親を悪者にすることではないのです。自分の育ってきた環境について客観的に振り返ること、親との関係性について冷静に考え直すことです。
「自分の生きづらさは自分のせい」と思ってきた方には、育ってきた環境や身近にいた家族の影響は大きいこと、自分と同じような悩みを持った人がいることをまずは知っていただきたいと思います。
また心理学には「世代間連鎖」という言葉があります。人には自分の親と同じように振舞う傾向があるのです。もしかしたら「毒親」とされる親も、困難のある家庭環境で育ったのかもしれません。自分に自信が持てず、自由な我が子に強い不安を感じていた可能性もあります。「なぜ自分の親は毒親なのか」と考えることで、親という一人の人間を別の視点から理解するきっかけになるかもしれません。
毒親との関係に悩み、自己肯定感の低下や生きづらさを抱えている方にとって、専門家による支援は回復への大切なステップとなります。とはいえ、「誰に相談すればいいの?」「どんな支援が受けられるの?」といった不安や疑問を抱える方も少なくありません。ここでは、専門家の支援を受ける際のポイントを整理します。
毒親に関する悩みは、心理的・感情的な影響が深く関わるため、以下のような専門職が適しています。
精神科医・心療内科医
強い不安や抑うつ、不眠といった症状がある場合には、医師の診察を受けることをおすすめします。
臨床心理士/公認心理師
感情の整理や自己理解を促すカウンセリングを受けられます。幼少期の体験や親子関係を安全に振り返る場として有効です(参考:臨床心理士解説|心理カウンセリングにおける主要な3つのアプローチ)。
専門家との面接は限られた時間の中で行われるため、以下のような準備をしておくとスムーズに進みます。
自分の悩みや困りごとを箇条書きにする
例:「母との電話の後、いつも自己否定が強くなる」「親に何か言われると罪悪感が強くなる」
これまでの経緯を簡単にまとめる
いつ頃から生きづらさを感じているのか、どのような家庭で育ったのか、気づいたきっかけなど。
相談で得たいことを整理する
「感情の整理がしたい」「親との距離のとり方を知りたい」など、希望する方向性があると共有しやすくなります。
カウンセリングは「受ければすぐ楽になる」というものではありません。以下の点を理解しておくと、取り組みを継続しやすくなります。
心の変化には時間がかかる
長年染みついた思考や感情のパターンをほぐすには、ある程度の継続が必要です。焦らず、少しずつ。
「感情が揺れること」も回復の一部
親との記憶を振り返る過程で、つらさや怒りが再燃することもあります。これは「整理が進んでいる証」ともいえます。
毒親育ちの方にとって、「誰かに頼る」「助けを求める」ことに強い抵抗や罪悪感を抱くことも少なくありません。しかし、支援を求めることは「弱さ」ではなく、「自分を大切にしようとする力」です。
自分の育ちや親の言動に対して疑問を持つことは、親を否定することではなく、「自分の人生を自分の手に取り戻す」ための第一歩です。
参考文献
【執筆】 chico(公認心理師・臨床心理士) 毒親の影響を受けた心の傷は、専門家の力を借りることで少しずつ癒していくことが可能です。「自分のせいじゃないかもしれない」と思えたとき、人生は違った角度から見え始めます。信頼できる専門家と一緒に、自分自身を取り戻すプロセスを歩んでみませんか? |