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タグ : 産業精神保健 , 田っちゃん@無職になりました(公認心理師・臨床心理士)
2025年9月5日
目次
ー「もうそろそろ働かないと。でも、何から手をつけたらいいか分からない」
ーそんな気持ちを抱えたまま身動きが取れずに、変わらない日々が過ぎていく。
今回のコラムでは、そんな状態の方へ「職業訓練校へ行く」という選択肢を提案します。前回のコラムでは、私自身が無職になったときの経験を振り返りながら「無職でいる状態がメンタルヘルスに与える影響」をお伝えしました(無職でしんどいあなたへ。心理職が無職になってわかった「心の回復」プロセス)。
今回はその続編として、私自身が職業訓練校に通った体験とそこで感じた心理的な変化をお伝えしつつ、職業訓練校が持つ”心理的な意義”について、専門的な視点から触れていきます。
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私ごとですが、仕事を辞めると決めてからは今後の進路について漠然とした不安が大きくなっていきました。
「一度働かない日々を過ごしてしまったら、また以前と同じように働けなくなってしまうのではないか」
「お金が尽きてしまったらどのように生きていけばいいのだろうか」
そんな思いを抱きながらこれからの進路について調べている時に「職業訓練校」の案内を見つけました。
職業訓練校とは、「公共職業訓練」や「求職者支援訓練」などと呼ばれる、就職支援を目的とした公的な職業訓練制度のことです。
厚生労働省の管轄で各地のハローワークや都道府県が連携して運営しており、学べる内容は事務系・IT系・医療・福祉系・製造・工業系・サービス・販売系など多岐に渡ります。訓練期間は一般的に3ヶ月〜6ヶ月程度のコースが多いですが、一部、1年におよぶ長期の専門訓練もあります。
大きな特徴として、受講費用がかからないこと、雇用保険(失業保険)や、一定の条件を満たすと支給される「職業訓練受講給付金」といった給付金をもらいながら勉強をできること、が挙げられます。生活費用をいただきながら無料で勉強ができるという、夢のような何ともありがたい制度ですね。
私個人としては、「この歳で新しく学び直すなんて」とか「通っている間に年齢だけが増えていくのでは?」といった不安が先立ちましたが、それと同時に、「こんな機会は一生のうち滅多にない」「何かやってみたい」というワクワク感を感じたことも覚えています。
興味がない方もぜひ調べてみてください!いろんな分野があって、見てみるだけでも意外と面白いですよ。
「よし、職業訓練校に行ってみたい!」「ちょっと知りたい」と思い立ったら、まずは地域のハローワークに相談します。学校探しから就職まではハローワークが力になってくれます。
ちなみに、通う学校を決める際に学校見学に行くことになると思うのですが、個人的に学校見学は”複数校行く”方がいいと思います。理由は同じ分野でも学校によって先生や学校の雰囲気、カリキュラムがバラバラだからです。実際に私も3校見学に行ったのですが、同じ分野なのにカリキュラムや学校の設備が三者三様で、空気感や雰囲気が全く違いました。
職業訓練校は併願ができませんので、納得のいく学校選びをするためにも絶対に複数校見学に行きましょう。
また、学校選びの基準として、学校の母体が学びたい分野に特化している企業なのかも確認することをお勧めします。学校で学びを提供している分野と事業に一貫性のある企業が運営している学校だと、より現場に近いスキルが学べるのではないかなと思いました。
さて、面接を通りいざ職業訓練校に通い始めてみると、そこには多種多様な背景を持つ人たちが集まっていました。
ー子育て中の方
ー転職を考えるミドル世代
ーワーキングホリデーなどで海外を転々としていた方
ー仕事を辞めてしばらく休んでいた方
年齢も事情もバラバラですが、「新しい世界に一歩踏み出そう」としていることは共通しており、そのような人達との出会いや、新しい分野の勉強は自分の世界を広げてくれる新鮮な体験でした。
それと同時に将来の不安に苛まれる回数がいつの間にか減っていることに気づき(目の前の課題に精一杯だからかもしれませんが笑)、「職業訓練校に通う行為自体がメンタルヘルスにポジティブな影響を与えるのではないか!?」と考え、今回のコラムを書くに至りました。
お待たせしました。
ここからはメンタルヘルスの話に戻ります。
実際に職業訓練校に通ってみた経験をもとに、職業訓練校への通学がメンタルヘルスに与える影響について、専門的な知見と絡めてお話ししていきます。
私自身、通っているなかで何度も感じたのは「職業訓練校に通うこと=心のリハビリ」という実感です。
そう感じた理由は、大きく4つあります。
無職の状態では、自己効力感(「自分にはできる」という感覚)の低下が起こりやすいということは、前回の記事でもお伝えしました。この「自己効力感」は、心理学者バンデューラが提唱した概念で、以下の4つの要素によって形成されるとされています。
職業訓練校では、実はこれらが自然と満たされやすい環境にあります。
たとえば、日々学校に通い、小さな課題をこなすことで得られる「成功体験」。似た境遇の仲間が努力している姿を見ることで、「自分にもできるかも」と思える「代理体験」。講師やクラスメイトからの励ましによって、自信を少しずつ取り戻せる「言語的説得」。最初は緊張していたことも、「挑戦しているから当然だ」と捉えられるようになり、それが「生理的状態のポジティブな解釈」に変わっていく。
このようなプロセスを通じて、低下していた自己効力感が回復していくことが予想されます。
「社会的孤立」とは、家族や地域社会との交流が著しく乏しいなど社会的な接点が希薄な状態を指します。無職の状態では、外との関わりが減ることでこの孤立が強まりやすく、メンタルヘルスの悪化と深く関係していることが、多くの研究でも示されています(これも前回の記事でもご紹介しましたね)。
職業訓練校では、同じ目標を持った仲間と日常的に関わる機会が増えます。挨拶や雑談、共同課題、発表などの小さなやりとりを通して、少しずつ「人との関係を取り戻す感覚」が生まれてきます。
さらに、社会的孤立が和らぐことで、再就職への意欲も高まるという報告もあり、これは心理面だけでなくキャリア面にもプラスに働く可能性を示唆しています。
無職になると、「誰かの役に立っている」「日常の中で自分が果たしている機能がある」といった社会的役割が失われやすくなります。ですが、職業訓練校に通うことによって、「学習者」「仲間」「チームの一員」といった新たな役割を自然と担うようになります。
職業的リハビリテーションの分野では、この「社会的役割の再構築」が心理的な回復の中核であると繰り返し強調されています。役割を持つことは、自尊感情を取り戻し、「自分は社会の一員である」という感覚を思い出すための大きな一歩になるのです。
これまた前回のブログ記事で、「自分は無価値なのでは」と感じてしまう無職の経験にも、“意味”を見出すことが回復の助けになる、というお話をしました。職業訓練校は、この「意味づけ」をサポートしてくれる場でもあります。
たとえば、「これは自分にとっての準備期間だった」「ここで学び直したからこそ、次に進める」というふうに、一見“空白”に思える時間が、「必要なプロセス」として自分のストーリーの中に組み込まれていくようになります。
実際、失業経験を振り返った調査でも、「あのとき訓練校に通ったことが、今の自信につながっている」と語る人は多く、その体験が「意味のある時間」へと変容しているケースが確認されています。
もちろん、すべての人に無理やり意味づけを強いるわけではありません。でも、「あのときの経験には意味があった」と思えることは、罪悪感やスティグマ(社会的烙印)を和らげる助けになる可能性があるということは十分考えられることです。
いかがでしたか?
私は、職業訓練校は単に「勉強する場所」ではないと思っています。知識や技術を身につけることはもちろんですが、新しい人とのつながりの中で自分を社会に再配置し、再び前に進む準備を整える場所とも言えるのではないでしょうか?
もちろん、職業訓練校は公的制度の一環であり、社会保険料によって運営されていますので、最終的な目的は「就職し、社会保険に加入すること」です。しかし、それと同時に「心のリハビリ」としての側面があることも、ぜひ知っておいていただけたらと思います。
自分は学生の時、「集団=窮屈」と感じやすい性分だったので、「大人になってまで学校に行くのか…。」と少し尻込みしていました。でも、実際に行ってみたら、大人になってから通う学校は全然雰囲気が違いました。
学びたいことを学ぶのは苦痛ではないですし、人間関係もいい意味で大人です(笑)何より、仮にもし辛くても通うのはたった数ヶ月です。不安はチャレンジしようとしている証と考え、今後の選択肢の一つとして検討してみてはいかがでしょうか。