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タグ : ふ~みん(公認心理師) , メンタルヘルス
2024年6月14日
子どもの頃、席替えやクラス替えの前に「仲良しの友達や好きな子と一緒になれると良いなぁ」と思ったり、何かの大会で「優勝できますように」と願ったりしたことはないでしょうか。小学生ぐらいの頃、そんな願いが叶うといういろいろな種類の“おまじない”がありました。実際に効果があったかどうか定かではありませんが、当時、本も販売されていてよくみんなで読んだり試したりしたものです。
大人になった今でも「○○だったら良いのに…」と思うことはよくありますが、いつの間にかおまじないに頼ることはなくなってしまいました。昔はワクワクして願い事が叶うと期待していたおまじないですが、よくよく考えてみるとどのような仕組みでできていたのでしょうか。根拠はあったのか、だれが言い出したのかなどなど不思議な点が多数あります。
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G-life(ジラフ)
辞書的な意味としてのおまじないは「神仏その他神秘的・不可思議なものの威力を借りて災いや病気を起こしたり、また除いたりする術」とされています。元々は「まじなう」という動詞であり、そこに「お」がついたのは、言葉の響きをやわらかくするためであるとか敬称をつけることで言葉に特別な意味合いを持たせたとか諸説あるようです。また、漢字で表すと「お呪い」と書くそうで、そのことにも驚きますね。のろいと読むと憎しみや恨みをもった相手に災いが起こるよう、悪い結果だけを引き起こそうとしているものになりますが、まじないは良い結果も悪い結果も引き起こそうとしているため、読み方だけではなく中身にも違いがあると言われています。
おまじないの類義語はたくさんありますが、有名なところですと厄払い、魔除け、魔術、魔法などが挙げられます。もっと視野を拡げてみると、ちちんぷいぷいやアブラカタブラ、ひらけごまなどもその類と言えるでしょう。つまり、超自然的な力をもつ何かが実際に存在するわけではなく、あくまでも人々の心のよりどころとして願いを叶えたり幸運を引き寄せたりするための行為や言葉のことを指しているのです。
その由来や成り立ちに関しては語源と同様に諸説ありますが、人間は古来より不安や恐怖から逃れたり物事の良い結果を引き寄せたりするために様々なおまじないを信じ、実行してきたと言われています。それだけではなく、人々の心を癒やし、活力を与えるものとしても大事にされてきました。特に日本では、古くから自然崇拝や霊魂信仰が一般的だったので、神聖な力を持つ物や場所を崇めることは珍しいことではありませんでした。
真偽のほどは分かりませんが、現代でも知られている「緊張を和らげるときに手のひらに人という漢字を3回書いて飲み込む」という行為は、大昔ヤマトタケルノミコトが戦闘の際に気持ちを落ち着かせるために行ったのが最初だという言い伝えも残っているそうです。そんな話を聞くと歴史の長さを感じますね。
さて、心理学の領域でもおまじないと似ている概念があります。それは「プラセボ効果」と呼ばれるもので、実際には効果がないものであっても信じることで不快症状など何らかの改善が見られる心理効果のことを言います。プラシーボ効果や偽薬効果とも呼ばれ、これらを耳にしたことがある方もいるかもしれません。
新薬の開発にも活用されており、臨床試験の段階で、新薬を飲んだグループと有効成分が全く含まれていない新薬にそっくりな見た目の偽薬を飲んだグループに分けて効果や副作用などの比較を行います。その臨床試験で新薬を飲んだグループの方に偽薬を飲んだグループを上回る効果や安全性が見られれば、新薬として承認されるわけです。さらには被験者が薬に対する知識をもっていたり、医師や専門家による説明を受けていたりすれば薬の効果は上がり、その方々との信頼関係が良ければ良いほど強い効果を感じるという結果も出ているそうです。
このプラセボ効果は新薬の開発だけではなく、実際の医療や心理療法の分野でも用いられることがあります。偽の薬を服用したり効果のない治療を受けしたりしても、被験者が回復や改善の傾向を感じることがあるのです。服用するという行為によって「効果が表れるだろう」と身体が反応するため起こる現象で、本当に何らかの改善がみられる場合もあります。それは自然治癒力や本人の暗示・期待などに影響を受けているとも考えられています。
※プラセボでも効果を感じる一方で副作用を自覚するケースもあり、そのような望ましくない症状が出現することを「ノセボ効果」と呼びます。
まさか自分のかかりつけの医師や薬剤師も偽物の薬を処方しているのではないか、と不安になる方もいるかもしれませんが、本当に症状を改善したいときにはあまり使われません。では、どのようなときに利用されるのかというと、お薬の過剰摂取を防ぎたいときやお薬の量を減らしていきたいときに有効活用されています。特に高齢者で認知症による記憶障害がある方や、不安や妄想が強くお薬が手放せない方などにはよく利用されています。
記憶障害があると一度服薬していてもまた追加で服用してしまい、その結果お薬が効きやすい高齢者には副作用が強く出現し、転倒などのリスクが高まります。また、不安から違うお薬も欲しい、もっと効果のあるものを飲みたいなどと必要以上にお薬を欲しがる方もいるようです。そんなときに医療機関や介護施設では偽薬を渡すそうです。そうすることでいつもより多く摂取しても副作用が出現せず、当事者は安心感を得られるというわけです。
【参考】
他にも睡眠薬がないと眠れないと思い込んでいる人が、有効成分のない偽薬をお薬だと思って服用したのに眠れたという例や、緊張して腹痛を訴える子どもにも「これを飲めば大丈夫」とラムネのような錠剤を渡したところ、痛みが消失したという例もあります。睡眠薬は依存性が取り上げられることもありますので、プラセボ効果が活躍してお薬を減量でき、さらに服薬しなくても眠れるようになるのでしたら素晴らしいですね。
このような例からも分かるように、プラセボにも一定の需要があり、プラセボ専門の製薬会社もあると言います。一般的に不安や緊張、疼痛に関する症状はプラセボに反応しやすいと言われていますので、おまじないと同じように、信じ込んでいればお薬の成分に頼らず症状が改善する場合もあるのかもしれないですね。ただし自己判断で減薬や服薬中断などすると良くない影響が出る場合もありますので、気になる方はかかりつけ医にご相談ください。
【解説】 ふ~みん(公認心理師) もしかしたら小さい子がケガをしたときに「痛いの痛いの飛んでいけー」と患部をさすりながら最後に遠くへ何かを飛ばすような仕草をしてあげるとなんだか痛くなくなって元気になった気がするのも一種のプラセボ効果と言えるかもしれませんね。
【監修】 本山真(医師、精神保健指定医、日本医師会認定産業医) 東京大学医学部卒業後、精神科病院・診療所での勤務を経て埼玉県さいたま市に宮原メンタルクリニックを開院。現在は株式会社サポートメンタルヘルス代表に加え、2院を運営する医療法人の理事長としてメンタルヘルスケアに取り組んでいる。 |