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タグ : メンタルヘルス , 久野(公認心理師・臨床心理士) , 本山真(精神科医師・産業医)
2021年12月7日
最終更新日 2021年12月9日
2021年12月3日付Yahoo!ニュース
「不平等な社会」がもたらす格差からメンタルヘルスの悪化を考える
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今回は『格差社会がメンタルヘルス悪化を引き起こす』という主旨の記事を取り上げました。こちらの記事ではアーティストによる格差・階級社会へのメッセージとして、GREEN DAYの『Stuck With Me』を引用しています。
私自身のロック原体験をご紹介しておきましょう。音楽の入り口は、いわゆるポップス・歌謡曲でした。思春期に差しかかる頃、背伸びをしつつ『ロック』と呼ばれていた音楽に手を出してみるわけです。
それまでに聴いたことのない激しいディストーションギター。がなるような歌声。ネルシャツに穴のあいたジーンズ。楽器を破壊するパフォーマンス。音楽の教科書とはかけ離れた自由さに心を奪われました。
和訳された歌詞カードを見てみれば、とにかく怒って(いかって)いる。その対象は、社会であったり、自身の生い立ちであったり様々でしたが、とにかく怒っているんです。
現在のように動画サービスが存在しない時代ですから、ライブ映像を目にする機会は限られていました。運良く目にすることができた映像では、やはりステージでアーティストが怒っていました。そして客席では、多くのオーディエンスが怒りに呼応し、拳を振り上げながら声を張り上げていました。
その後、ジャンルとしてのロックには様々な種類があることを知るわけですが、(いわゆる商業ロックと呼ばれたものを除き)共通している精神性を見つけました。それが反体制です。(狭義の)ロックとは音楽という媒体を通じた体制へのアンチテーゼなのだと理解しています。体制への反発。思春期心性も相まって随分と入れ込みました(中二病ですね笑)。
社会への不満は怒りとなり、怒りが原動力となって多くの作品が生まれました。小さな町で生まれた作品も、同様の怒りを持つ各地のオーディエンスを巻き込みつつ世界的なムーブメントとなり、時に社会構造の変革を果たしてきたように感じます。
動画サービスやサブスクリプションサービスなど昔に比べれば遥かに音楽コンテンツは充実しています。つまり、ロックミュージシャンによる反体制メッセージの拡散性は高まっているわけで、世界のあちこちで社会変革を起こすムーブメントが生まれてもおかしくないはずです。ところが、社会の階層は固定化されたままですし、格差は依然として解消されません。何故でしょう?
芸能・芸術の世界で所得分配が一部の人たちに集中し、その分野を支配する昨今の状況は「スーパースター現象」とも言われます。
つまり、メッセージを発信するアーティストがそもそも固定されているわけですね。格差・階級社会へのアンチテーゼというメッセージそのものが発信されていなければムーブメントも起きないわけです。
所得格差が大きく不平等な国ほど「すべての社会階層で」健康、暴力、学力、犯罪、そしてメンタルヘルスなど多岐にわたって問題が悪化します。
【引用】「不平等な社会」がもたらす格差からメンタルヘルスの悪化を考える
加えて、階級社会ではオーディエンスがエネルギーを失っている可能性があるわけです。仮にアンチテーゼというメッセージをキャッチしたとしても、社会的な流動性が減少している状況ではムーブメント化には至らない。
コロナ禍において貧困層がメンタルヘルス問題を抱えていることが明らかになりました。かつてのロックムーブメントを盛り上げたのがいわゆる貧困層だったはずです。
【参考】
新型コロナウイルス感染症流行下で居住地域がメンタルヘルスに与える影響を明らかに:日本全国大規模インターネット調査より
メンタルヘルス専門職として、階級社会の変革を扇動したいわけではなりません。ロックおじさんとして、ステージでミュージシャンが怒り、フロアではオーディエンスが怒る。そんなエネルギッシュな場面をもう一度目にしたい。私にあるのはそんな素朴な期待です。
個別事例として支援を導入することで、オーディエンス1人のエネルギーを回復させることはできるかもしれません。しかし、ムーブメントを引き起こすにはオーディエンスの数が全然足りません。
階層社会の変革を目的とした社会活動など私には到底難しいことです。ただし『今一度エネルギッシュなロックを見たい』という点において社会を対象にしたメンタルヘルスケアに取り組むことはできるかもしれません。メンタルヘルスケアを推し進めることによってオーディエンスが元気になる。伴って新しいムーブメントが生まれ、格差社会に一石を投じるかもしれない。
またメンタルヘルスを向上させるために、一手段として階層構造の変容を推進する、という考え方もありなのかもしれません。より多くの人を巻き込みながら進める必要がありそうですね。
反体制はフォロワーが増えることで体制化します。反体制を歌っていたミュージシャンが体制化しメッセージを失う。ロックの歴史において、そんなシーンは何度も見てきました。ロックは健全であり、体制化したバンドには常にアンチバンドが生まれます。バンド同士が喧嘩をすることで、フォロワーの若者たちは更に怒り、新しいものが生まれたりするんですよね。
本記事で触れているいわゆる『流動性』ですよね。バンドが流動性を生むことが格差を破壊する一手になるかもしれません。
古くからロックを聴いてきた世代としては、新しいロックスターに登場して欲しいと常に期待していますし、ロックには鬱屈とした世情を払拭するパワーがあると信じています。
世界の格差・階級社会が固定しているのであれば、反体制として格差・階級社会を壊すメッセージを放ってほしいし、そんなメッセージをキャッチしたオーディエンスがムーブメントを盛り上げて欲しい。
歳を取ってしまった私は、ダイブをしたりモッシュをしたり、は難しくなってしまいましたが、メンタルヘルス専門職として、ダイブやモッシュができるくらい元気になってもらう。そんなサポートはできるのではないかと考えたりします。
しかし現在の世界では民主主義が「権威主義」へと移行・退行してしまっている側面もあります。私たちがメンタルを健康に保ち、より良く生きていくためには、政治・経済両面での民主主義の重要さをもう一度考える必要があるのです。
権威主義へと移行・退行している『民主主義』の重要さをもう一度考える。権威主義下で何かが不足していないアーティストが怒る。同調するオーディエンスが怒る。本当の民主主義は反体制の声に耳を傾けるはずです。ロックが元気な世の中になることを願います。私にできることがあれば、できることから取り組んでまいります。
【監修】 本山真(精神科医師/精神保健指定医/日本医師会認定産業医)
【執筆】 久野(公認心理師・臨床心理士) |