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精神科医監修:やる気の科学『動機づけと自己決定理論』

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2023年3月24日

やる気を『動機づけ』『自己決定理論』から科学する精神科医監修ブログ

 

【執筆】

籔(公認心理師・臨床心理士)

仕事や勉強をしているとき、物凄くやる気が出て集中できたらいいなあと思うことはありませんか?

日常でも、家事などのやらなければならないことをするとき「やる気が出なくて何となくできない」という状態が続いてしまったりしませんか?

その一方で「やり始めたらスイッチが入ってめちゃめちゃできる」という体験をしている方も多いかもしれません。

筆者はいつもやる気の波が激しいので大変です。

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オタク臨床心理士・公認心理師は語る。シリーズ

 

やる気に関連したトピック”動機づけ”


 

やらないとマズいことはついギリギリになってしまう

さっきまではやる気だったのに、人から指摘された瞬間にやる気がしぼんでしまった…

 

気まぐれで繊細な”やる気”ですが「自由自在にやる気を出したい!」という欲求は人類共通のテーマのようで…。これまでに数多くの研究が報告されています。今回はやる気に関連したトピック「動機づけ」、特に「自己決定理論」と呼ばれる理論を紹介いたします。

※「動機づけ」はその対象や背景理論を含めると、とても一度では紹介しきれない概念であるため、自己決定理論以外の考え方については(やる気があれば)別の機会にお伝えいたします(そうです。これは別の機会がやってきづらいパターンです)

 

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“動機づけ”とは何か?


「動機づけ」とは心理学や社会科学にて用いられる専門用語であり『目標や目的に向かって行動を起こし達成するまで続ける過程や機能』を指します。ちなみに動機づけは「強度」と「方向性」に大別できるとされています。動機づけの「強度」とはどれくらい実際の行動を起こさせるかの強弱で、動機づけの「方向性」とはなぜその行動を起こすのかの理由の種類です。

 

 

…わかったような、わからないような…。私たちが何か行動を起こすときには(自覚できるかどうかはともかく)必ず理由や原因があります。私たちが行動するときの動力(エンジン)が動機づけというわけですね。当然ではありますが、動力の強さや種類は人それぞれ大きく異なります。これが「強度」と「方向性」というわけです。

 

「方向性」の一例ですが、同じ「勉強をする」という行動であっても、「良い学校に行くため」、「親に怒られないようにするため」、「勉強自体が好き」など”人によって行動に繋がる強さや行動する理由が違う”ことは当たり前にありますね。理由と強さが異なるため出力されるパフォーマンスも異なるというのイメージしやすいかもしれません。

 

動機づけには種類がある?自己決定理論とは?


動機づけは「内発的動機づけ」「外発的動機づけ」「無動機づけ」という3種類に分類することができます。

 

  • 自分自身の好奇心を満たしたい・達成感を得たいなど、行動そのものが目的になる動機づけを「内発的動機づけ」といいます。
  • 一方で、報酬がもらえる/やらないと罰則があるなど、行動以外の要因が目的となる動機づけを「外発的動機づけ」といいます。
  • 最後に「無動機づけ」ですが、これはどちらの動機づけもない状態、すなわち行動したいとも思っておらず、行動させる外的要因もない状態のことです。当然ですが、無動機づけの状態では行動は非常に起こりにくくなりますね。

 

動機づけ研究における「自己決定理論」は3つの動機づけにおける”内発的動機づけ”に着目した理論です。「自己決定理論」とは、その名の通り、行動に対してどれくらい「自己決定」できているかが、行動の継続や成績・パフォーマンスに影響するという理論です。自己決定とは即ち内発的動機づけが高い状態とされています。

 

 

自分自身の行動が3つの動機づけの内どれに該当するか整理してみると理解しやすいかもしれません。「やりたいからやっている」「必要に迫られてやっている」「なんとなくやっている」「やらされている」などの段階によって成果やパフォーマンス、行動の継続具合が変動することは日常的に体験していますよね。”好きこそものの上手なれ”という言葉は、この内発的動機づけによるパフォーマンスの高さを表していると言えるでしょう。

 

自己決定理論では、内発的動機づけを高めることが行動を起こしたり続けることへの重要な要素とされています。確かに外発的動機づけは何となく邪道なイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれません。

 

内発的動機づけと外発的動機づけの違いは?動機づけに優劣はある?


内発的動機づけと外発的動機づけは、果たして断絶された概念なのでしょうか?また、内発的動機づけと外発的動機づけに優劣はあるのでしょうか?

 

答えはどちらもNOです。

 

内発的動機づけと外発的動機づけは地続きの概念と考えられています。「自己決定理論」では、無動機づけから外発的動機づけ、そして内発的動機づけまでを、自己決定の度合いに即して並べることができます。もう少しイメージしやすいように外発的動機づけを整理してみると…「自己決定」の度合いが低い順にそれぞれ「外的調整」、「取り入れ的調整」、「同一化的調整」、「統合的調整」の4つの段階に分かれます。

 

この4つに分類した外発的動機づけの状態は、以下の通りです

  • 「外的調整」:行動に意味があるとは思っていないが、報酬や罰といった外部からの統制で行動する段階
  • 「取り入れ的調整」:行動に意味があるとは分かっているが、やりたくないので外部からの統制を要する段階
  • 「同一化的調整」:行動に価値があると思っており、「価値があるから行動しよう」と思い行動できる段階
  • 「統合的調整」:行動に意味があると思っており、自分の価値観とも一致しているため、やりたいと思い行動できる段階

 

特に「同一化的調整」と「統合的調整」は、理由や強度は異なるものの自発期に「やりたい/やろう」という構えになっているため、自己決定の度合いがかなり高い段階だと言えます。内発的動機づけとの差は「行動の価値」が「行動それ自体」ではない、つまり外的なものであるという点といえるでしょう。

 

一連の動機づけを、勉強の場面に置き換えてみると、こんな感じになります。

 

1.無動機づけ:やりたくないし、誰にも言われないからやらない

2.外的調整:やりたくないが、親に怒られるからやらねばならない

3.取り入れ的調整:勉強はできた方がいいんだろうけどやる気は起きない、でも、親に怒られるからやらねばならない

4.同一化的調整:勉強はできた方がいい、だからやろう

5.統合的調整:勉強はできた方がいいし、自分も勉強ができるようになりたい。だから勉強したい

6.内発的動機づけ:勉強大好き!

 

後半になるにつれて、違いが分かりにくくなってきますね。後半は、気持ちとしては「やりたい」で同じなので、自覚的にはあまり差がないかもしれません。

 

 

実際の研究でも、同一化的調整以降は内発的動機づけと同じくらいの行動活性化やパフォーマンスの上昇がみられているそうで、特に同一化と統合の段階はほぼ同じ概念として取り扱っているものもあります。従って自発的な行動をするためには、内発的動機づけだけでなく同一化的調整や統合的段階を目指すのも戦略の一つだといえるでしょう。外発的動機づけは内発的動機づけと全く異なる概念ではなく連続性のあるものなのです。

 

内発的動機づけは善、外発的動機づけは悪なのか?


内発的動機づけと外発的動機づけに優劣がないことはご理解いただけたかと思います。それでは内発的動機づけ・外発的動機づけに善悪はあるのでしょうか?前述のように一連の動機づけが連続するものと考えると、善悪についても明確に線引きできるものではありません。特に好きではなかったものでも取り組んでいるうちに好きになることありますよね?ご褒美のために始めたものが気づいたら内発的動機づけに変わっている経験って誰しもあるのではないでしょうか?

 

筆者は小学生の頃「シールがもらえるから」という邪な理由ではじめた習い事がありました。

しかしながら、段々と習い事自体が楽しくなって、あっという間に「シールはいらない」と言い出した覚えがあります。

シールも貰えれば、それで嬉しさが倍増するかといえばそんなことはなく「シールが貰えるのもいいが、習い事とは関係ない」というポジションにおさまっていました。

 

筆者の経験は典型的な「外発的動機づけ」が「内発的動機づけ」にシフトしていった例と言えるかもしれませんね。筆者の習い事の例にも一部出ていますが、内発的動機づけと外発的動機づけ、両方は揃っていたとしてもやる気自体には関わらない場合があったりします。好きなこと(内発)をやってご褒美(外発)が貰えたら一石二鳥な気がするのですが、不思議なものです。

 

研究では、内的動機づけが高いところに外発的動機づけを加えることで寧ろ内発的動機づけが下がってしまう場合があるという結果が出ていたりします。これは、認知バイアスの一つである「アンダーマイニング効果」で説明されています。「やりたい(内発)」という構えに「××のためにやらねば(外発)」という義務感が出現してきて自由度が減ってしまい「自己決定ができてない」と脳が判断しやすくなる。結果として「内発的動機づけ」が下がって、やる気がなくなってしまうというわけですね。自覚的には「お金のためにやってるんじゃない!!」といった反発心や、水を差されたような気分になってしまう感覚が近しいかもしれません。やはりやる気は繊細ですね。

 

 

やる気の科学の結論!動機づけを乗りこなせ


今回は、自己決定理論に沿って、内発的動機づけや外発的動機づけを解説していきました。やった方が良いこと、やらなければならないことなのにやる気が起きない場合には、ご褒美等で行動を活性化させるのは有効だったりします。片づけが気乗りしない・勉強が捗らないときに「ここまでやったらおやつ」など、自分にご褒美を用意するのは外発的動機づけの上手な使い方です。

 

実際に行動すると「気分が良い」「意外と楽しかった」などの経験をするかもしれません。そうなれば、徐々に自己決定が高めな動機づけに向かっていけたりします。「とりあえずやってみる」が得意なタイプは、行動するのも方法の一つかもしれません。また、自分の行動の意味や行動する価値を調べたり、考えてみたりすることで、納得感やモチベーションを稼ぐことができる場合もあります。「取り敢えずやってみる」はハードルが高い…というタイプの場合には、最初の行動を起こしやすいマインドを作ることが、きっかけ作りとしては有効だったりします。

 

外発的動機づけは悪ではなく、その時の状況に応じて自分に合ったものを取り入れ、使いこなしていけると充実した日々を送れるのではないでしょうか。

 

最後に…


あなたの「やりたい」「やりたくない」はどこからきていますか?急に「やりたいからやる!」というスーパーな状態になることは難しいですが、自分の機嫌を取りつつ行動していくことで、「やりたい」気持ちが育っていくかもしれません。趣味なのか、勉強なのか、仕事なのか、家事なのか…対象にしたい行動によっても動機づけの在り方は異なってくるでしょう。それぞれの目的に合わせて、体験したり考えてみたりしながら、動機づけをちょっと意識して、時折自分の状態を振り返ってみても良いかもしれません。

 

参考文献


  • 岡田 涼・中谷素之(2006).動機づけスタイルが課題への興味に及ぼす影響──自己決定理論の枠組みから ── 教育心理学研究,54, 1-11.
  • 山口 剛(2012). 動機づけの変遷と近年の動向:達成目標理論と自己決定理論に注目して 法政大学大学院紀要, 69, 21-38

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