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依存とは何か?依存症との違いは?なぜ依存行動は繰り返されるか?

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2024年5月3日

依存とは何か?依存症との違いやなぜ依存行動は繰り返されるかについて解説

【執筆】

田中(公認心理師・臨床心理士)

みなさんは「依存」という言葉を耳にした時にどのようなイメージを持ちますか?どちらかというとマイナスなイメージや印象をお持ちの方も多いのではないでしょうか。「依存」という言葉からアルコール依存症やゲーム依存症など、誰もが耳にしたことのある依存症を連想する方もいらっしゃるかもしれません。今回のブログでは、依存とは何か、依存症とはどのような状態なのか、といったことに着目していこうと思います。

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依存とは何か?


「依存」の意味を国語辞典で調べてみると「他のものをたよりとして存在すること」「ほかの物に頼って生活または存在すること」という説明が出てきます。この説明文だけを読むと”依存”とは、対義語として”自立した生き方”、”主体的な生き方”が当てはまるようなイメージを持たれるかもしれません。が、両者は対立関係ではなく相補関係だと理解してください。自立しているからこそ適切な依存ができる。適切な依存ができるからこそ自立した生き方ができる。そんな関係性です。

 

実は依存と自立の相補関係は赤ちゃんの頃から始まっています。赤ちゃんはお腹がすいても自分で食べ物を食べることはできないですし、排泄をして不快な感覚があっても、汚れたおしめを自分で取り換えることはできません。そのため、母親に泣いて訴えることで、お腹がすいたタイミングで母乳を与えられ、不快なおしめを変えてもらい、生理的要求を満たしていきます。やがて、心も体も未熟な状態から少しずつ発達していくと、自分一人では取り組むことが出来ない困難に対して、言葉を用いて自分の気持ちや意志を表現し、他者からの適切な援助を求められるようになっていきます。

 

心と身体が発達していく過程で、依存のしかたや依存対象は変容していきます。赤ちゃんの時には、母親や父親といった特定少数の対象に対して、泣くという行動によって依存していた状態から、兄弟や友人などの複数の人物と、様々な行動で依存関係を結ぶようになっていきます。「依存」は、人間が自立して生きていく為に本能的に備わっている行動パターンとして捉えることが出来るのです。

久米(2001)参考

 

依存と依存症の違いは?


依存には様々な形があります。適応的に依存している状態では自身の主体性や自立性を保持しながら、適度に他者を頼ることができます。このような依存は人間が社会生活を営む上で必要な行動であり、依存症とは異なります。”自立”と聞くと、自身のことを全て自分でこなすようなストイックなイメージを持たれるかもしれませんが、人は一人では生きてはいけません。いつでも飲み物や食べ物を手にすることができるのは、誰かが飲み物・食べ物を製造しているからですし、スマホゲームでふとした息抜きができるのは誰かがゲームを開発しているからです。

 

それでは、依存症とはどのような状態のことを指すのでしょうか?依存症とは特定の物質や行為を「やめたいと考えても、やめられない」状態のことを指します。WHOが作成している国際疾病分類(ICD-11)では、『物質使用章又は嗜癖行動症群』に、依存または嗜癖に関連した疾病を定めています。『物質使用症又は嗜癖行動症群』では、依存の対象が物質と行動の大きく2つに分類されており、代表的なものとして、物質依存ではアルコール依存症、薬物依存症等、嗜癖行動依存ではギャンブル行動症、ゲーム行動症等があります。

 

【物質依存】

アルコール

大麻

合成カンナビノイド

オピオイド

鎮静薬、睡眠薬又は抗不安薬

カフェイン      

ニコチン

など

【嗜癖行動症群】

◎カテゴリー

ギャンブル行動症

ゲーム行動症

嗜癖行動症、他の特定される

嗜癖行動症、特定不能

樋口(2022)参考

 

なぜ依存行動が繰り返されるのか?


依存症になると、自分の身近にある物質(アルコールやカフェイン、ドラッグなど)、行為(買い物、ゲーム、ギャンブルなど)、人間関係(恋愛、性行為、DVなど)に対して強迫的に執拗なほどに依存し、心理的にも身体的にもその状態から抜け出せなくなると言われています(柿澤,2020)。

 

なぜ依存行動が繰り返されるのかのメカニズム

脳の報酬系による作用

薬物を摂取するとドパミンと呼ばれる脳神経伝達物質が放出される。ドパミンの放出により一時的に多幸感や陶酔感、安心感が得られるため、嗜癖行動や依存行動を繰り返してしまう。

 

生きづらさの感覚/親密性回避

成育環境の中で養育者や周囲の人に頼ることが出来ず、不安感、無力感や自己否定感、生きづらさの感覚があるものの、他者に援助を求めたり信頼関係を築くことが出来ず、他者と親密な関係になることを回避してしまう。不安感情を回避するために、嗜癖行動や依存行動に走ってしまう。

柿澤(2020)参考

 

上記メカニズムによって、自分で依存行動を制御することができず、強迫的に依存行動を繰り返してしまうわけです。つまり「適応的でよい依存」というのは、依存度が低く、客観的に判断して問題の無い依存(柿澤,2019)ですが、「依存症」でいう依存とは、対象への依存度が高く、客観的に見て多くの問題が生じてしまう依存と言えます。

 

参考文献


  • 樋口進(2022)物質使用症又は嗜癖行動症群, 精神神経学雑誌オンラインジャーナル, 第124巻, 第12号,877-844.
  • 柿澤暁 (2019) 依存症における親密性回避の問題についての考察, 人間学研究論集(8),1-6.
  • 柿澤暁 (2020) 共依存症問題についての考察 人間学研究論集,(9), 49-64.
  • 久米禎子(2001)依存のあり方を通してみた青年期の友人関係 -自己の安定性との関連から-

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