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幼少期の絵本を覚えている理由――記憶に深く残る科学的メカニズム

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2025年12月5日

なぜ子どもの頃に読んだ絵本は忘れないのか? ― 記憶と脳の仕組みから解説

先日,友人たちとある有名な絵本の展示会にいってきました。その友人たちとは生まれも育ちも全く違うのですが,全員その絵本を知っていて,みんなで展示会を堪能できました。私は昔のことは漠然と覚えている程度で,「高校生の時どんな話してた?」「〇年生の運動会で何した?」などと聞かれたときに思い出せず困った経験があります(嫌な思い出だったわけでもなく,高校時代はとても平和でした…!)。

そんな私でも幼少期に読んだ絵本や印象に残っている場所などは覚えているので,幼少期という時期がそうさせているのか,はたまた記憶の方法が特殊なのか…どうなんだろう?と疑問に思いました。今回はそんな個人的な疑問を解消するブログとなっております(笑)。良ければお付き合いください。

 

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幼少期の絵本はどれくらい記憶されている?研究から見る実態


冒頭で幼少期に読んだ本は記憶にとても残っている!とお話ししましたが,実際に幼少期に読んだ本を覚えている人はどれくらいいるのでしょうか?大学生を対象に絵本の記憶について検討した論文によると,対象となった大学生の約7割が幼少期の絵本に関する記憶があると回答しています。この結果から,幼少期に読んだ絵本を記憶している,あるいは印象に残っていることは一般的であるといえます。

ではなぜ幼少期によんだ絵本の記憶が強くのこっているのでしょうか。調べてみると,さまざまありました!

 

感情と結びつく「エピソード記憶」が絵本を強く残す理由


幼少期に読んだ絵本の記憶は,「エピソード記憶」という種類の記憶として脳に保存されやすいことが分かっています。エピソード記憶とは,「母親と映画館で映画を見た。とっても感動した!」といったような,状況全体の記憶のこと指します。つまり,「絵本を読んだ」という単純な記憶ではなく,なんという本を読んで,その本を読んだときはどういう状況だったのか,どんな気持ちだったのかも含めた具体的な記憶になります。

ではなぜエピソード記憶が残りやすいのかというと,感情と記憶の結びつきが強いからです。先ほど説明したように,エピソード記憶はその時の感情も含めた記憶です。「扁桃体」と呼ばれる部位が「恐怖」や「喜び」などの感情を察知して活性化し,「海馬」と連携することで記憶が定着する仕組みになっています。海馬は記憶の中枢であり,すぐ忘れてしまう短期記憶を継続的に覚えていられる長期記憶に変換する役割を担っています。

まとめると,幼少期は,経験や出来事を,感情が含まれた記憶として脳に保存しており,感情が含まれた記憶は大事な記憶だ!と脳が認識することで,大人になっても覚えていられる,というわけです‼大人になると,幼少期とは異なり意味記憶が主になるため,感情を強く動かさないと記憶が残りにくいようです。

ちなみに…記憶にはいくつか種類があります。エピソード記憶のように記憶の中身(内容)に関する記憶の種類には意味記憶と手続き記憶があります。意味記憶は,一般的な知識や概念に関する記憶です。犬は動物,お茶は飲み物,などの出来事や経験に関係のない記憶が該当します。手続き記憶は,意識的に早期出来ず言語で表現できない記憶です。自転車に乗る方法,逆上がりをする方法,楽器を演奏する方法など反復練習して身に着けた動作や技能が該当します。

 

神経可塑性が高い幼少期は“記憶が定着しやすい時期”


0~7歳の幼少期は「神経可塑性」というものが非常に高いです。この神経可塑性は,記憶力に影響を与えるので,高ければその分記憶力も高くなります。絵本を読めば視覚や聴覚,触覚など様々な感覚で情報を脳にインプットすることができ,学習や記憶の定着につながります。ちなみに,神経可塑性が高い時期に受ける刺激は,脳の「構造」にさえ影響を与えることがわかっているので,幼少期のうちにいろんな情報をインプットすることは脳の成長にもいいことといえますね!

 

大量のシナプス形成が“忘れにくさ”を生むメカニズム


幼少期に脳は大量のシナプス(神経のつながり)が作られます。シナプス神経細胞が情報伝達を行う際に連絡する接合部位のことで,記憶や学習,思考に深く関与しています。このシナプスは,思春期以降は働きが変化し,不要だと判断したつながりは刈り取られ,重要なものだけが残されるようになります。なので,例えば幼少期と成人とで同じ量の記憶をしたとしても,残される情報は幼少期の方が多いので,その分幼少期の記憶の方が良く覚えている,というわけです。なんだか切ない気もしますが,成長するにつれて情報の取捨選択できる機能が進化しているとも言えますね。

 

絵本は五感を刺激する「記憶に残りやすい構造」を持つ


絵本は視覚,聴覚,触覚,リズム感,感情などたくさんの感覚を複数同時に使わせる好悪図をしています。確かに,飛び出る絵本や,キラキラしている絵本,声が出る絵本など,多様な仕掛けがありますよね!このように五感を複数使うことで,脳の記憶を保存する箇所が複数に分散され,忘れにくくなるようです。

 

幼少期の読み聞かせがもたらす発達への効果


最後におまけで,幼少期に絵本を読む・読み聞かせることで得られる効果について簡単にご紹介します。代表的な効果としては,言語能力や理解力の向上があげられます。想像つきやすいと思いますが,本を読むことでいろんな言葉や言い回しに触れることができ,言葉を読んだり書いたり,理解したりする力が高まります。保育園に通っている幼児を対象に読み聞かせをした研究では,同じ絵本を反復して読み聞かせした群は,毎日異なる絵本を読み聞かせした群と比較して,語彙力が向上するという結果でした。反復して読むことにより学習が強化されるからくりでしょうか。ほかの能力についても比較・検討していて興味深かったので,是非一読ください。

 

参考文献


 

【執筆】

かなた(公認心理師・臨床心理士)

今回は絵本と幼少期の記憶についてお話してみました。いかがだったでしょうか!記憶ってすごく奥深いんだなあと調べてみて思いました。こんな感じで漠然とした感想が想起しやすいから,記憶も残りにくいのかなと思ったりしました…。深い人間になりたい!

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【監修】

本山真(精神科医師/精神保健指定医/日本医師会認定産業医/医療法人ラック理事長)

2002年東京大学医学部医学科卒業。2008年埼玉県さいたま市に宮原メンタルクリニック開院。2016年医療法人ラック設立、2018年には2院目となる綾瀬メンタルクリニックを開院。

 

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