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タグ : ふ~みん(公認心理師) , メンタルヘルス
2023年10月20日
最終更新日 2024年8月2日
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皆さんの一番古い記憶(最初の記憶)はいつ頃のどのようなできごとでしょうか。今回は人生最初の記憶について解説します。
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これまでの人生の中で「赤ちゃんのときのことは覚えてないなぁ。」「5歳のときに幼稚園でこんなことがあった。」などと他者と話した経験がある方も多いと思いますが、ヒトは自分自身が赤ちゃんだった頃のことを覚えていないと言われています。そのような概念を専門用語では「幼児期健忘」と言い、研究もされています。研究によると赤ちゃんの頃のことを覚えていない理由について2つのことが考えられています。
1つ目として、乳幼児期は学習することが未熟なため記憶を固着できずに記銘(情報を覚え込むこと)を失敗しているという考え、2つ目は記憶の貯蔵の際に必要とされた神経ネットワークが後々発達したものに飲み込まれたために当時を検索する(思い出す)ことに失敗しているという考えです。それぞれの説を支持する結果も出ているそうですが、現時点では後者の検索に失敗しているという考えの方が有力視されているようです。
しかし、乳児期にまったく記憶ができないのかというとそういうわけでもありません。同じように研究によって、ヒトは生後3カ月で1週間ほど、生後4カ月では2週間ほど記憶が保持されることも明らかにされています。これらは脳の発達と大きくかかわっていることも分かっています。ヒトの脳は生後数年の時間をかけてゆっくりと発達します。そのため幼児期健忘が出現するのですが、生後2、3日ほどで成体とほぼ同様の記憶力が備わるモルモットなどには幼児期健忘はみられません。また、ヒトが弟や妹が誕生したことや祖父母が亡くなったことなど、乳幼児期の重要な出来事を記憶しているのは、主に3歳以降であると言われています。
定型発達の子どもは1歳半頃までに言葉を発するようになります。それは言葉を記憶しているからできること、つまり記憶自体は機能しているはずだと考えられます。しかし、「いつ」「どこで」「何を」などを伴う出来事の記憶であるエピソード記憶の発達は4歳頃に機能するものだと考えられているため、自分自身について、いつ、どのようなことが起きたかを理解できるようになる月齢以前のことは何もなかったように感じてしまい、記憶として残らないのです。
仮に残っていたとしても幼児期の記憶は長期間にわたって定着しないと言われており、その記憶にまつわるエピソードを見聞きすることで実際の出来事のように記憶に上書きされてしまうこともよくある話です。
では、生まれる前はどうなのでしょうか。
ときどきメディアにて「胎内記憶」という言葉を取り上げられているのを聞いたことがある人も居ると思います。2000年代前半からよく聞かれるようになった胎内記憶という表現は、文字通り母親のおなかの中にいたときの記憶を指しますが、生まれてきたときの記憶や受胎するまでの記憶を含む広い概念であるとも言われています。胎内記憶に関してももちろん研究が進んでおり、その第一人者である池川明氏は、胎内記憶を精子記憶、卵子記憶、着床記憶などとさらに細かく分類しています。
科学的な根拠は解明されておらず未知な部分も少なくないものの、池川氏の調査によると3人に1人の割合で胎内記憶が残っているというデータが得られたそうです。母親のおなかの中に居る赤ちゃんの脳は妊娠2カ月頃からもととなる神経管が作られ、妊娠3~4カ月頃には心地良いという感覚が分かるようになり、妊娠5~6カ月頃には温度変化や外の音が分かるようになると言われています。妊娠7~8カ月頃になると視覚が発達し、記憶する能力が芽生え、妊娠9~10カ月頃には脳が十分に発達するとされています。この聴覚や視覚、脳の発達過程から、赤ちゃんに胎内記憶が残っていることは不思議ではないと考えられているのです。
しかし、胎内記憶は生後いつまでも残っているわけではありません。個人差はありますが、一般的に4歳頃をピークとし、徐々にその記憶は消失していくと言われています。小学生におなかの中に居たときのことを覚えているかと尋ねると、「覚えていない」「分からない」などと答えるのは、そのためです。
つまり、胎内記憶の話を聞くことができる時期は非常に限られており、一生に一度あるかどうかというレベルだそうです。そんなに限られたチャンスしかないならぜひ聞いてみたいと思ってしまいますが、胎内記憶については、子ども自身が突然話し始める場合もあれば両親からの質問に対して答えてくれる場合もあり、聞き出す時期やタイミングも大事だと池川氏は述べています。
例えば、3歳前後になり思ったことを言葉で表現できる時期でないと子どもが言いたいことが伝わらない、就寝前や入浴中のリラックスした場面だとおなかの中のことを思い出しやすい、妊娠中に行った場所を再度訪れると突然「来たことがある」と子どもが思い出す、などです。
もちろん、記憶の上書きを予防するためには、胎内記憶に関する事前情報を与えたり答えを誘導したりすることは好ましくありません。もしも胎内記憶の話を上手に聞き出すことができたら、おなかの中はあたたかかった、お風呂みたいだった、早く出たいと思っていたなどのおなかの中に関するエピソードの他、外に出てきたらたくさんの人が見ていたなどの生まれた瞬間の記憶、このおうちを選んで母親のところにやってきたなどというおなかの中に入る前の記憶にまつわる内容が聞ける可能性があることも調査結果で明らかにされています。
参考
【解説】 ふ~みん(公認心理師) 1900年代前半には胎内記憶についての研究はまだされておらず一般的ではありませんでしたが、今では妊産婦さん向けの雑誌やメディアでも取り上げられる概念になりつつあります。記憶に関しては多くの研究がされており、成長とともに記憶できる容量が増加することはよく知られていますが、幼児期に消失してしまうレアな記憶について、もし身近に尋ねられる月齢のお子さんが居る方はぜひ聞き出せるチャンスを探してみてください。
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